福本伸行さんは、悪役にも、その人物なりの理屈や信念が欲しいと語っています。
『カイジ』の兵藤については、描いてきた作者自身も愛着を持つようになったと話しました。
カイジを苦しめる悪人でありながら、何を考え、どんな人間なのかも気になる。
福本さんの説明をたどると、そんな悪役の作り方が見えてきます。

悪役にも、その人物が行動する理屈が欲しい
2023年の『モーニング』40周年インタビューで、福本さんは、悪人にも理屈を与えたくなると話しています。
その人物なりの正当性がなければ、ただの変な人になってしまうという考えです。
「悪いやつほど、ある意味信念を持っていて欲しい」と語りました。
兵藤についても、福本さんは悪い人物だと認めています。
それなのに、愛着や愛情を持ってしまい、カイジが兵藤を徹底的に倒して終わる形でよいのか、考えるようになったといいます。
和也の人間味は、描く中で深まった
和也は、帝愛グループの会長・兵藤和尊の息子です。
『和也編』では、カイジへ新たな勝負を持ちかけます。

同じ2023年の取材で、和也の人間味について聞かれた福本さんは、結果的にそうなったと答えています。
最初に描いた人物のコンプレックスを掘り下げていくうちに、いいところも見えてきたという説明です。
福本さんは、和也はずるいことをしても、ルールそのものを破棄するわけではない、とも話しました。
大槻、一条、遠藤は、それぞれ悪さが違う
2025年の『大カイジ展』での本人インタビューでは、福本さんは、敵を作るのは楽しいと話しています。
カイジが戦う相手のキャラクターが強く立っているほど、漫画も面白くなるという考えです。
福本さんが挙げた大槻は、にこやかに頭を下げ、謝っているときにも企んでいる人物です。
一条には、二枚目でプライドが高いという持ち味がある。
福本さんは、悪さにもいろいろな種類があると語りました。
遠藤についても、いい面と悪い面が出ることはあっても、本人の中では矛盾していないと福本さんは語りました。
カイジにとって助けになるときと、そうでないときがあっても、遠藤という人物がその都度別人に変わるわけではないのです。
人物ごとに似合う台詞を考える福本さんの話にも、登場人物をそれぞれ違う人間として扱う姿勢が表れています。
利根川は、兵藤の下で組織を支える人物
利根川について、福本さんは2024年の『川島・山内のマンガ沼』で、兵藤の下で最も頭が切れる役だと説明しました。
福本さんには、組織の頂点に立つ者は幼児のようになっていくというイメージがあり、その下には、しっかりした人物が必要だったのです。

利根川は、カイジが対決する敵であると同時に、兵藤の命令を受けて働く人物でもあります。
その立場を主役に据えたのが、『中間管理録トネガワ』です。
会長から命じられた企画を進めるため、黒服たちを集めて会議を開く。
利根川は、会長と部下の間で悩み、振り回されることになります。
敵だった人物の苦労が、別の漫画になる
『トネガワ』は、萩原天晴さんが原作、橋本智広さんと三好智樹さんが漫画を担当し、福本さんが協力したスピンオフです。

利根川は、部下をまとめ、気難しい上司にも対応しなければなりません。
『トネガワ』では、利根川のそんな仕事の苦労が笑いになります。
カイジに厳しい言葉を投げかけていた人物が、今度は、自分も上からの要求に苦しむ側として描かれるのです。
2023年のインタビューで、悪役にも信念や理屈があることとスピンオフの関係を問われた福本さんは、その見方に同意しました。
理屈がなければ、スピンオフも作りにくいと話しています。
敵として出てきたときから、その人物自身を追いかける話にもなりうる厚みがあるのです。
まとめ
カイジを苦しめた利根川を、今度は兵藤の命令に苦しむ側から読む。
『トネガワ』は、悪役だった人物にも、主役として読める物語があることを示しています。
福本さんが人物に持たせる理屈や信念は、主人公の前に立つ相手を魅力的にするだけでなく、その相手自身の話を読みたくなる面白さにもつながっています。


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