福本伸行の絵はどう変わった?丸い初期作と『アカギ』の顔を見比べる

福本伸行『アカギ』第1巻の電子版書影 漫画家・作者
福本伸行『アカギ』第1巻、電子版書影/フクモトプロ・ハイストーン。

福本伸行さんは、デビュー作の絵を、丸っこい人情漫画やコメディーの絵柄だったと振り返っています。
一方、『アカギ』で目に留まるのは、長い鼻や、直線を使った顔の輪郭です。
初期の短編と勝負の漫画を見比べると、顔つきの違いに加えて、人物の気持ちを見せる絵の使い方も楽しめます。

デビュー作は、丸っこい人情漫画の絵だった

福本さんは、1980年に『よろしく!純情大将』でデビューしました。
2024年に公開された『川島・山内のマンガ沼』の対談では、その作品について、絵が丸っこく、人情漫画やコメディーという感じだったと話しています。
初めから、厳しい勝負だけを描いていたわけではありません。

初期の作品を読むなら、『ワニの初恋』もその一つです。
講談社からは、1987年に単行本が出ています。
今の電子版でも、強面の男が恋をする短編を読めます。

福本伸行のワニの初恋の緑色の電子版書影
『ワニの初恋』電子版書影/福本伸行・フクモトプロダクション。 出典

『ワニの初恋』には、大きな顔と体の可笑しさがある

『ワニの初恋』の主人公は、ワニと呼ばれる男です。
駅の伝言板の前に立つワニは、逆立った髪、長い鼻、がっしりした体で描かれています。
少女を思って笑みを浮かべる顔も、大きく描かれています。

駅の伝言板の前で、やり取りする少女を思うワニ
『ワニの初恋』冒頭、駅の伝言板の場面/福本伸行・フクモトプロダクション。 出典

ワニの大きな鼻や尖った髪を見ると、初期の絵にも、後の福本漫画を思わせる特徴があります。
ワニの腹や腕、膝には丸みがあり、がっしりした体と、恋をする顔の取り合わせにも可笑しさがあります。
初期の人情ものと後の勝負ものの違いは、絵を見ながら読むと、人物の姿からも感じられます。
ワニと黒沢の人情漫画では、それぞれの男の願いも紹介しています。

赤木の顔には、頬と顎の直線が目立つ

『アカギ』の少年・赤木しげるは、細い目と、すっと伸びた鼻を持つ人物です。
第1巻の電子版書影では、頬から顎へ向かう線が直線的で、顔の下側が鋭く細まっています。
大きな頭と体で目を引くワニとは、違う形の顔です。

福本伸行『アカギ』第1巻の電子版書影
『アカギ』第1巻、電子版書影/福本伸行・フクモトプロダクション。 出典

書影の赤木には、落ち着いた目つきや、口元の笑みもあります。
線の形と表情の両方が、赤木の印象を作っています。

『アカギ』の冒頭では、顔と手元で南郷の不安を見せる

『アカギ』第1巻は、借金を抱えた南郷が、麻雀で追い詰められている場面から始まります。
その南郷の顔も、大きなコマで描かれています。
太い眉、額の汗、横顔の長い鼻が目立ちます。

額に汗を浮かべる南郷の顔、横顔と卓上の牌を描くアカギ第1巻の冒頭
『アカギ』第1巻の冒頭、南郷と卓上の牌/福本伸行・フクモトプロダクション。 出典

南郷の顔の隣には、牌に触れる指や、金の描写が置かれています。
株や博打で借金を作り、今夜の勝負に賭けたという独白もある。
顔、手元、言葉を続けて読むと、南郷が何に追い詰められているのかが伝わります。

押見修造が語った、漫画として伝わる絵

漫画家の押見修造さんは、2025年の『スペリオール』新人賞の審査後インタビューで、福本さんの絵を例に挙げています。
美術的なうまさとは別に、漫画としての伝わり方が強いという評価でした。
押見さんは、漫画では、自分の絵をどう使うかが大事だと話しています。

カイジ第1巻を手にする福本伸行。2023年の本人取材写真
福本伸行、2023年『モーニング』40周年インタビュー/撮影・柏原力。 出典

まとめ

恋をして浮き立つワニと、金や牌を前にして汗をかく南郷。
絵柄や題材が違っても、人物の気持ちを顔や動作で読ませるところに、福本漫画の魅力があります。
押見さんが評価した伝わる強さは、こうした絵の使い方からも感じられます。
初期作と代表作を見比べると、輪郭の変化を楽しみながら、その伝わる強さにも触れられます。

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