目に見える物を、自分の手元へ引き寄せる。
『ヒキヨセル』の主人公・引寄淀は、自分にはそんな力があると語ります。
『うえきの法則』などの能力ものを描いてきた福地翼さんが、今度はそのジャンルを、読者の予想を誘う仕掛けに使った短編です。

連載の合間に描いたネームが、雑誌には載らなかった
福地さんは2023年の本人インタビューで、この短編の制作経緯を話しています。
面白そうなネタを思いつき、連載の仕事の合間にネームにしたのが始まりでした。
『サイケまたしても』を描いていた頃だったと思う、と振り返っています。
読み切りとして雑誌に載せられないか、担当編集者たちにも見せました。
面白いという反応は得たものの、コンプライアンスの面で引っかかり、雑誌には掲載できないことになったそうです。
本人が語っているのはここまでで、どの場面が問題になったのかという細かな説明はありません。

得意な能力ものが、読者を誘う仕掛けになる
淀は、両親を亡くした頃から力を使えるようになった、と説明します。
見えている物に加え、思い描いた物まで引き寄せられると考えるようになり、肉まんを手にした場面では、何でもただで手に入るのではないかと喜びます。
淀の説明に沿って読むと、便利な力を持つ人物の話として進んでいきます。
福地さんがこだわったのは、その先のどんでん返しでした。
よく描いている能力ものをフェイクとして使い、叙述トリックを仕掛けようとしたと話しています。
自分の漫画を読んでいる人ほど引っかかったのではないか、とも振り返っていました。
能力ものを描く福地さんの短編だから、今回も超能力を使う話だと思う。
作者が利用しようとしたのは、そんな読者の期待です。
これまでの作品で親しんだジャンルが、ここでは予想を誘うためにも働きます。
SNSで公開し、読者の反応に手応えを得た
雑誌には載らなかったネームを、福地さんは当時のTwitterへ投稿しました。
描いたものに、読者がどんな反応をするのか知りたかったからです。
好評を受けて、描いてよかったと感じたことも語っています。
ペン入れ前の公開原稿では、人物やコマ割り、会話の運びを見ることができます。
仕上がった単行本の絵とは違う、ネームの段階の漫画に触れられる短編でもあります。
まとめ
福地さんは、得意な能力ものを、そのまま描くだけでなく、読者を誘う仕掛けにも使いました。
当時は雑誌に載らなかったネームでも、発表の場を変えることで、その試みを読者に届けられたのです。
『ヒキヨセル』は、いつもの福地作品への親しみまで、読む時の予想に関わってくる一作です。




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