藤田和日郎が高橋留美子から受け取ったもの――怪異譚の衝撃と二枚のサイン

執筆する藤田和日郎/2025年の本人取材。 漫画家・作者
執筆する藤田和日郎/2025年の本人取材。

藤田和日郎さんにとって、高橋留美子さんは漫画を描こうと思わせてくれた作者です。
高校時代に読んだ『闇をかけるまなざし』で、人間が怪異に勝つ物語に出会いました。
高橋さんからの影響は、物語の作り方にも、漫画を読む人への向き合い方にも及んでいます。

藤田さんには、高橋作品を愛した友人との思い出もあります。
友人の仏壇に並ぶ二枚のサインを知ると、藤田さんが漫画の力を信じる理由が、もう少し見えてきます。

怪異に負ける結末への不満が、描きたい話を教えてくれた

藤田さんは2019年の本人インタビューで、怪異譚が好きだった一方、人間が負けて終わる話には不満を感じていたと振り返っています。
そこへ現れたのが、高橋さんの短編『闇をかけるまなざし』でした。
怪異と戦って勝つ話を読み、自分も描いてみたくなったといいます。

『高橋留美子傑作短編集』第2巻/高橋留美子、小学館。『闇をかけるまなざし』を収録。
『高橋留美子傑作短編集』第2巻/高橋留美子、小学館。『闇をかけるまなざし』を収録。 出典

『闇をかけるまなざし』は、『高橋留美子傑作短編集』第2巻に収録されています。
藤田さんのデビューから初連載までをたどる時にも、この読書体験が出発点になります。

藤田さんは『漫画家本vol.1 藤田和日郎本』でも、この短編から受けた衝撃を語っています。
好きで読んでいた『聊斎志異』や『遠野物語』では、人間が怪異に負ける話が多いと感じていました。
高橋さんの短編で藤田さんが驚いたのは、普通の人間が怪異に勝つ話を描いてよいということでした。

『漫画家本vol.1 藤田和日郎本』/小学館。本人のロングインタビューを収録。
『漫画家本vol.1 藤田和日郎本』/小学館。本人のロングインタビューを収録。 出典

藤田さんが惹かれたのは、人間が怪異に負けて終わる怖さとは違う、立ち向かって勝つ面白さでした。
その衝撃が、自分の漫画の基本になっていると話しています。

『うしおととら』/藤田和日郎、小学館。本人取材に掲載された原稿。
『うしおととら』/藤田和日郎、小学館。本人取材に掲載された原稿。 出典

友人に届けたサインは、二枚目だった

藤田さんは2025年の本人インタビューで、高橋作品を愛した高校時代の友人も、漫画家を目指した理由の一つだったと話しています。
亡くなった友人の家族から、入院中は高橋作品を読んで恐怖を和らげていたと聞いたそうです。

後年、藤田さんは高橋さんのサインを手に入れ、旭川にある友人の仏壇へ届けました。
ところが、そこには既に高橋さんのサインがありました。
友人の母親が、息子が力をもらったことへの感謝をサンデー編集部へ手紙で伝えると、『めぞん一刻』の響子のサインが送られてきたのです。
藤田さんが届けた一枚は、二枚目でした。

藤田さんは、友人を支えた漫画と、母親の手紙に応えた高橋さんの姿を知ることになりました。
藤田さん自身も、命に関わるような読者の手紙には返事を出していると話しています。

物語の向こうには、読んでいる人がいる

藤田さんが高橋さんから学んだことには、表現への気遣いもあります。
2025年の本人取材では、高橋さんや島本和彦さんから、読者の悲しみや災害の経験を想像して描く大切さを教わったと語っています。

漫画の中では、作者が人物も出来事も作れます。
藤田さんは、その自由の楽しさを語る時にも、漫画をどんな人が読むのかに気を配っています。
怖いものとの戦いを描く藤田さんにとって、高橋さんは、物語の可能性を広げてくれた作者であり、読者への接し方を教えてくれた先輩でもあるのです。

まとめ

『闇をかけるまなざし』を読んだ藤田さんは、自分も描いてみたいと思いました。
友人と二枚のサインの話では、漫画から力を得る読者がいることを、藤田さんは身近な経験として語っています。
高橋留美子さんからの影響をたどると、藤田さんが受け取った感動を、今度は自分の読者へ届けようとする姿が見えてきます。

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