あだち充さんの漫画は、担当編集者にどんなふうに見えていたのでしょうか。
都築伸一郎さん、丹波聖泰さん、市原武法さんの話には、完成した単行本だけでは見えない制作の場面が残っています。
企画を話し合う時間もあれば、背景の絵が省かれたコマからも何かが伝わることがありました。
都築伸一郎と、一緒に描くものを探した時間
『少女コミック』であだちさんを担当した都築さんは、青春時代や野球の話をする、友人同士のような付き合いを振り返っています。
二人が作品の方向を話し合い、互いに面白いと思っていたホームドラマを題材にしようと決めて生まれたのが、『陽あたり良好!』でした。

2019年の都築さんの回想では、この成功の後、自分の理想を別の作家へ押し付けて失敗した経験も語られています。
そこから都築さんは、作家それぞれの個性を生かす大切さを学んだといいます。
二人が『陽あたり良好!』の方向を探した経緯は、こちらの記事でも紹介しています。
『MIX』では、絵を省いたネームからも伝わった
『MIX』を担当した丹波聖泰さんが、2016年のインタビューで楽しみとして挙げたのは、ネームを見ることでした。
ネームは、コマ割りや台詞などを大まかに示した、漫画の設計図に当たる原稿です。
『MIX』のネームは絵が非常に簡略で、背景だけのコマに絵が入っていなくても、丹波さんには何となく伝わるといいます。

丹波さんは新人作家にも見習ってほしいと思う一方、新人が同じものを出したら怒るかもしれない、と冗談を添えています。
『MIX』が生まれた場所として挙げたのは、練馬駅近くの喫茶「アンデス」でした。
丹波さんが作者と初代担当者に尋ねても、はっきりした誕生のきっかけはあまりない、という話だったそうです。
市原武法が驚いた、和也の死のアオリ
少年時代から『タッチ』を読んでいた市原武法さんは、雑誌の扉などに付く「アオリ」の文章も作者が書いていると思っていました。
好きなアオリを切り抜いて保存するほどだった市原さんは、編集者になり、和也が亡くなった回のアオリを書いたのは上司だったと知って驚いたそうです。

2017年の本人の回想で、市原さんは、漫画が人の手で作られていると実感した経験を語っています。
子どもの頃に感動した雑誌の言葉にも、漫画家とは別の書き手がいたのです。
まとめ
都築さんは、作家に自分の理想を押し付けた失敗から、個性を生かす編集へ考えを改めました。
簡略なネームを喜んで受け取る丹波さんの話にも、作者の表現を受け止める担当者の姿があります。
そして市原さんの驚きは、漫画を楽しんだ記憶の中に、編集者の仕事も残っていたことを教えてくれます。
作者のそばで働いた人の話から、単行本の外にあった相談や驚き、言葉にも出会えます。


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