『るろうに剣心』宗次郎はなぜ笑い続け、剣心の前で怒ったのか

瀬田宗次郎を描いた『るろうに剣心 完全版』第13巻の表紙 るろうに剣心
『るろうに剣心 完全版』第13巻/和月伸宏・集英社

宗次郎は剣心を斬ろうとするときも、穏やかに笑っている。
京都での再戦では剣心を速さで圧倒しながら、由美に苛立ちを漏らした。
笑顔のまま苛立ち、やがて怒りを隠せなくなる。
宗次郎が動揺した理由を知るには、あの笑顔を身につけた頃まで戻る必要がある。

宗次郎の笑顔は、楽しさの表れではなかった

幼い宗次郎は、身を寄せた米問屋の一家から暴力を受けていた。
泣いたり怒ったりすると、相手の仕打ちはさらにひどくなる。
笑っているほうが早く済むと知り、宗次郎はつらいときにも笑うようになった。

ここでの笑顔は、相手に好かれるための愛想ではない。
宗次郎が家の中で身を守るために覚えた反応だった。
親族を斬った雨の夜、志々雄に泣いているのかと尋ねられても、宗次郎は笑って否定する。
その時点では、自分が何を感じているかを宗次郎自身も言葉にできない。

雨の夜、志々雄と歩き出す幼い宗次郎の原作場面
『るろうに剣心』京都編/和月伸宏・集英社

志々雄の教えは、宗次郎の過去に答えを与えた

志々雄は宗次郎に、虐げられるのは生まれのせいではなく、弱いからだと言った。
「弱肉強食」という言葉とともに脇差を渡す。
宗次郎は当初、その刀を使うつもりがなかった。
だが、志々雄をかくまったことが家族に知られ、命の危険を感じたとき、宗次郎は刀を抜く。

宗次郎は助けに来た誰かに救われたのではなく、手にした刀で親族を殺し、生き延びた。
志々雄の言葉には、弱い者を守らない理屈と、強くなれば生き残れるという道が一緒に入っていた。
宗次郎が志々雄に従ったのは、抽象的な思想に賛成したからだけではない。
志々雄の言葉を思い出し、その言葉どおりの方法で命の危機を切り抜けたからだ。

強いのに守ろうとする剣心が、なぜ腹立たしいのか

剣心は宗次郎と戦えるほど強い。
それでも剣心は人を殺さず、弱い者を守ろうとする。
宗次郎を倒せる機会にも、剣心は斬り捨てない。
宗次郎が自分を生かすために使った強さとは、向かう先が違う。

宗次郎の速さを前にした剣心との対決
『るろうに剣心』京都編/和月伸宏・集英社

宗次郎は剣心に、正しいというならなぜあのとき守ってくれなかったのかと問う。
幼い宗次郎が苦しんでいた場に、剣心が居合わせたわけではない。
宗次郎がぶつけているのは、剣心が今示すような強さを、自分が必要としたときには誰からも向けられなかったという思いだ。
笑って受け流してきた苦しみを、剣心の前では受け流せなくなった。

宗次郎が剣心に正しさを問い返す原作コマ
『るろうに剣心』京都編/和月伸宏・集英社
宗次郎が剣心に過去の自分を守ってくれなかったと語る原作コマ
『るろうに剣心』京都編/和月伸宏・集英社

怒りで崩れたもの、残ったもの

それまで剣心は、宗次郎の感情を読めず、動きを先回りしにくかった。
宗次郎が怒りを表に出すと、その強みは失われる。
とはいえ、感情を取り戻したから剣の腕まで消えたわけではない。
宗次郎はなお自分の技で決着をつけようとし、最後に剣心の奥義とぶつかる。

戦いの中で宗次郎は、親族を斬った雨の夜、本当は泣いていたのだと気づく。
泣いているのかと問われて笑って否定した少年が、初めてそのときの気持ちを口にできた。
剣心への怒りは、勝てない相手への単純な苛立ちではなく、守られなかった少年の痛みが表へ出たものだった。

だから敗北後の宗次郎は、志々雄の教えを剣心の教えに入れ替えて終わらない。
かつては笑って押し込めた自分の気持ちを抱えたまま、宗次郎は自分の答えを探しに行く。

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