「予想の斜め上を行く」という言い方は、冨樫義博さんの『レベルE』から広まった表現として、『三省堂国語辞典 第八版』に由来が記されています。
元になったのは、何をするか分からない王子に振り回される、護衛隊長クラフトの台詞でした。
なぜ「予想の上」ではなく「斜め上」なのか。
作中の場面と、辞書に載るまでの調査をたどると、短い言葉に込められた面白さが分かります。
クラフトが警戒した、最悪の予想さえ外す王子
『レベルE』に登場する王子は、天才的な頭脳を持ちながら、周囲を厄介な騒動に巻き込む人物です。
その王子を捜すクラフトは、部下に最悪の事態を考えておけと念を押します。

ここで続くのが、「奴は必ずその少し斜め上を行く!!」という台詞です。
悪いことが起きると覚悟しただけでは、王子の行動を読み切れない。
自分たちが想像していた方向からも外れる、という困り方が「斜め」の一言で伝わります。
褒めているのではなく、油断するなと部下に言い聞かせている場面です。
王子の厄介さと、付き合わされるクラフトの苦労が、一緒に分かる台詞になっています。
「予想以上」とは何が違う?
三省堂の「今年の新語2015」の選評は、得点の例でこの違いを説明しています。
70点くらいだと思ったテストで100点を取るのは、予想より良い結果です。
一方、出題範囲の間違いでテスト自体がやり直しになるなら、思っていたのとは別の方向へ話が進んでいます。
「斜め上」がしっくりくるのは、後者のような驚きです。
良いか悪いかという評価の前に、そんな展開になるとは思わなかった、という意外さがあります。
漫画では困った王子への警戒に使われた言葉が、作品の展開や人の反応など、いろいろな驚きを表す言葉にもなったのです。
『パタリロ!』説も調べた、辞書編纂者の確認
『レベルE』が由来だと辞書に記されるまでには、別の説の確認もありました。
編集委員の飯間浩明さんは、語源調査についてのインタビューで、その経緯を話しています。
『パタリロ!』で見たという声はあったものの、根拠になる箇所は確認できませんでした。
松本人志さんの『遺書』には同じ言葉がありましたが、飯間さんの説明では、普通より少し高い水準を指す使い方でした。
同じ文字が先に出てくれば、それだけで今の使い方の由来になるわけではありません。
飯間さんは『レベルE』を実際に読み、現在の「予想を外れる」という意味に合う場面があることを確認しました。
そうして、出典と意味の両方が確かめられる作品として、辞書に記載されたのです。
1995年の漫画から、2021年発売の辞書へ

『レベルE』は1995年に始まった漫画ですが、「斜め上」が三省堂の「今年の新語」で10位に選ばれたのは2015年です。
この「新語」は、その年に初めて誰かが使った言葉という意味ではありません。
選評では、以前からある使い方が、広く見かけられるようになったことが説明されています。
さらに、2021年12月発売の『三省堂国語辞典 第八版』に新たな項目として収録されました。
漫画の台詞から、作品の話題に限らず使われる言葉へと広がっていったことが、この経過から分かります。
『レベルE』自体を知りたい方は、作品の特徴と月一連載の背景を紹介した記事もご覧ください。
まとめ
「斜め上」の面白さは、驚きの大きさだけでなく、思っていた方向まで外された感じを短く伝えられることです。
元の場面を知ると、普段何気なく使う言葉にも、王子に手を焼くクラフトの顔が浮かびます。
クラフトが王子を警戒する台詞が、私たち自身の驚きにも使える言葉になった。
そこに、冨樫さんの台詞が漫画の外まで届いた面白さがあります。


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