『からくりサーカス』の着想の一つは、『うしおととら』を描き終えた藤田和日郎さんの、大人の恋愛を描きたいという思いでした。
そこへ、映画から受け取った人物関係と、自分の読み切りにあった人形の戦いが加わります。
人形を調べるうちに、サーカスや錬金術にも関心が広がり、1997年に始まる長編の世界が作られていきました。
藤田さんの回想をたどると、物語の材料が一つずつつながっていく過程が見えてきます。
『うしおととら』の次に、大人の恋愛を描きたかった
藤田さんは2019年の本人インタビューで、『うしおととら』では初恋を描いたが、次は年上の男女の恋愛を描きたいと思っていたと語っています。
もう一つの着想は、好きだった映画『サウンド・オブ・ミュージック』です。
藤田さんが挙げたのは、裕福な家へ来たマリアが、子どもたちに歌や自由さ、楽しさを伝えるという構図でした。
金持ちの子どもに、外から来た人物が生き方を教える話を描きたいと考えました。

そこへ加えたのが、1994年の読み切り『からくりの君』で描いた、等身大の人形を使う戦いです。
この読み切りは、『うしおととら』の連載中に発表され、『藤田和日郎短編集 夜の歌』に収録されています。

大人の恋愛、子どもと外から来た大人、人形の戦い。
藤田さんは、別々のところにあった描きたいものを、一つの企画へ組み合わせていました。
映画の人物関係をヒントにしながら、自分が既に描いた人形戦も生かしたところに、『からくりサーカス』の出発点があります。
人形の調べ物が、サーカスと錬金術へ広がった
人形を操る人物の話に決まると、藤田さんは人形を調べ始めます。
その中で見世物としての人形を知り、見世物の歴史からサーカスへ関心がつながりました。
さらに自動人形を調べると、人間を作り出そうとする錬金術へもたどり着きます。
藤田さんが説明する調べ物の過程では、人形から次の題材へと関心が広がっています。
藤田さんは、人形とサーカスを組み合わせることに面白さを感じ、調べ物で得た発見を物語へ取り込んでいったと説明しています。

メタリカの曲から、小説『砂男』へ
人形の世界を広げた読書には、ホフマンの小説『砂男』もあります。
藤田さんは『ホフマン全集』の本人インタビューで、メタリカの曲『エンター・サンドマン』の「サンドマン」に興味を持ったことが、読むきっかけだったと語っています。
藤田さんは、子どもを寝かしつける言葉に現れる砂男を、不気味に感じました。
日本の妖怪や人さらいの言い伝えも思い浮かべ、読みながら想像を広げていったといいます。
人形の資料にも登場するこの小説には、自動人形や錬金術、狂気に陥る男の話があり、自分が描いてみたかった世界だと感じました。

藤田さんは、はっきり説明し尽くされない小説の世界に、想像を刺激されると話しています。
読んでいる途中に本を閉じ、人物や作者について自分で考える時間も、読書の楽しみだと捉えています。
『砂男』も、知識を得るための資料であると同時に、藤田さんの頭の中に新しい世界を広げた本だったのです。
着想を、約9年の連載へ育てた
『からくりサーカス』は、1997年から2006年まで『週刊少年サンデー』で連載されました。
物語を最後まで描く過程には、藤田さんの発想に加えて、仕事場の仲間の力もありました。
完結時の本人メッセージでは、藤田さんはアシスタントと担当編集者へ感謝を伝えています。
作者自身にもまだよく分からないイメージを絵にしてくれたアシスタントと、長編を理解して進路を調整した編集者。
藤田さんは、約9年続いた執筆を終え、描き切れたことに安堵していました。
まとめ
藤田さんは、小説を読んで自分の頭に浮かんだイメージを、漫画を作る糧だと考えています。
『からくりサーカス』でも、恋愛を描きたい思いと人形への関心が、映画や読書、調べ物によって広がっていきました。
何を参考にしたかだけでなく、その中の何に惹かれて、次にどんな想像をしたのか。
その過程を知ると、藤田さんの好きなものが一つの作品へ育っていくところまで楽しめます。


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