樹林伸はどう設定を作る? 読者が先を知りたくなるアイデア

弘兼憲史漫画・樹林伸原作の島耕作の事件簿の書影 樹林伸
©弘兼憲史・樹林伸/講談社

樹林伸が原作作りでいう「設定」は、舞台や主人公の職業を決めることだけではありません。

その場所や人物に、読者が続きを知りたくなる条件を加える。

本人が挙げた二つの例から、そのアイデアの作り方をたどります。

『金田一少年の事件簿』や『GetBackers』などを手がけた樹林さんは、2019年の本人インタビューで、その違いを二つの作品から説明しました。
一つは他の作者の『約束のネバーランド』、もう一つは自身が原作を書いた『島耕作の事件簿』です。

2019年の講談社の取材に掲載された樹林伸の写真
2019年の本人インタビューに掲載された樹林伸の写真。講談社モーニング。 出典

「孤児院」だけでなく、どんな孤児院なのか

原作を作るときに何から考えるかを聞かれ、樹林さんは設定から始めると答えています。
舞台や主人公を決めるときにも、面白いアイデアが入っているかを考えるのです。

本人が例に挙げたのが、『約束のネバーランド』でした。
孤児院を舞台にするというだけでは足りない。
外へ出たことのない子どもたちが暮らす、謎のある孤児院というところまで考えて、初めて設定になると説明しています。

白井カイウ原作・出水ぽすか作画の約束のネバーランド第1巻の書影
『約束のネバーランド』第1巻。白井カイウ原作、出水ぽすか作画。樹林が設定の例に挙げた作品。©白井カイウ・出水ぽすか/集英社。 出典

孤児院という場所に、外の世界との関係が加わります。
なぜ子どもたちは外の世界を知らないのか、そこで何が起きているのか。
場所を説明する言葉が、そのまま続きを知りたくなる疑問を生むのです。

島耕作を追い詰める状況から、物語を作る

『島耕作の事件簿』では、樹林さんが原作を書き、弘兼憲史が漫画を描いています。
この作品で最初に考えたのは、島耕作が追い詰められる状況でした。

目が覚めた島のそばには、女性の遺体がある。
女性の首に巻かれているのは、島自身のネクタイです。
島には何が起きたか分かりません。
島は自分が疑われかねない状況に、目覚めた瞬間から置かれています。

弘兼憲史漫画・樹林伸原作の島耕作の事件簿の書影
『島耕作の事件簿』。樹林伸原作、弘兼憲史漫画。©樹林伸・弘兼憲史/講談社。 出典

樹林さんは、島がどんな状況なら最も追い詰められるかを考え、この導入を作ったと話しています。
舞台をバブル期にすることや、地上げのような時代の要素は、その後に加えました。
まず島を窮地に置く出来事を考え、そこから物語を広げられる時代を選んだのです。

読者の予想と、作者が用意した真相を分ける

設定からストーリーを考える話で、樹林さんは二つの筋を用意する方法も説明しました。
本人の言う「偽のストーリー」と「本当のストーリー」です。

前者は、読者がこう読んでくれたらよいと作者が考える筋です。
後者は、作者がその裏に用意している真相です。
作者は、読者が予想する出来事とは違う答えを用意しておくのです。

読者は、目の前の描写から何が起きたのかを考える。
その後に明かされた真相が予想と違うことで、驚きが生まれる。
樹林さんは、この差が大きいほど意外性が生まれると話しています。

伊賀大晃原作・月山可也漫画のエリアの騎士第1巻の書影
『エリアの騎士』第1巻。樹林伸の別名義・伊賀大晃が原作、月山可也が漫画を担当。©伊賀大晃・月山可也/講談社。 出典

本人は謎と意外性を、恋愛漫画やサッカー漫画でも大切なものとして挙げました。
『シュート!』の担当編集者を務め、伊賀大晃名義で『エリアの騎士』の原作も書いた樹林さんは、探偵もの以外にも、その考えを向けています。
ここでいう謎は、殺人事件の犯人に限られません。
読者がまだ知らないことを物語に置き、その答えを知りたくなるようにするという創作の考え方です。

樹林さんは、考えた物語を台詞とト書きの脚本にし、コマやページの流れまで検討しています。
設定の段階で生んだ疑問を、どのような場面で見せ、どこで答えを明かすか。
アイデアを考えた後には、読者に伝える順序を作る仕事も続きます。

まとめ

樹林さんは、人物や場所を紹介するだけでなく、そこに謎を置いてから物語を考えます。
さらに、読者が思い描く筋と真相を分けることで、先を知りたい気持ちの後に驚きを用意しています。
設定の段階と展開の段階で、違う働きのアイデアを加えていたのです。

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