『幽遊白書』氷河の国は、誰を守る国だったのか

赤ん坊の飛影を抱き、涙を流しながら自分への復讐を願う泪 幽☆遊☆白書
引用:冨樫義博『幽☆遊☆白書』第18巻(集英社)

氷河の国で生まれた飛影は、赤ん坊のうちに捨てられた。
その手を下した泪は、飛影の母・氷菜の友人だった。
泪は命令に従いながら、生きて戻って自分を殺してほしいと願う。
国を守るための行為を、実行した本人は償うべき罪と考えている。

この食い違いから見えてくるのは、追放される飛影だけが傷ついているのではない、ということだ。
国に残れる泪も、氷菜との友情に背く役を負わされている。
氷河の国が守ろうとする「同胞」とは、そこで暮らす一人ひとりの思いまで含む言葉なのだろうか。

同胞の安全のために、友人の子を捨てる

長老は、女児は同胞、男児は忌み子と分ける。
同じ母から生まれた雪菜と飛影が、生まれた時から別々に扱われるのだ。
母や妹にとっては家族であることと、国の仲間として認められることが一致していない。

ただし、氷女の恐れがすべて根拠のない偏見だと片づけることもできない。
原作では、異種族との間に生まれた男児には凶悪で残忍な性格の例が多く、産んだ母も直後に死ぬと説明される。
長老も、忌み子に殺された同胞の存在を泪に思い出させる。
氷女たちは、自分たちの種が生き残るために外界との交流を避けている。

氷菜との親しさを知りながら泪に情けは無用と命じる長老
引用:冨樫義博『幽☆遊☆白書』第18巻(集英社)

長老は泪と氷菜の親しさを知ったうえで、「情けは無用」と命じる。
泪には、友人の子を助けたい気持ちより、国の判断を優先することが求められる。
泪自身は同胞として扱われても、氷菜との友情を守る行動は許されない。

泪は、命令に従った自分を許せない

泪は飛影を捨てる。
けれども、飛影の死を願っているわけではない。
涙を流しながら、生きて戻り、最初に自分を殺してほしいと頼む。
それが氷菜への償いになると考えるからだ。

赤ん坊の飛影を抱き、涙を流しながら自分への復讐を願う泪
引用:冨樫義博『幽☆遊☆白書』第18巻(集英社)

長老の命令では、飛影は同胞に害をなす存在として排除される。
泪の言葉では、その飛影が自分を殺すことを、友人への償いとして受け入れている。
長老が防ごうとするのは、忌み子によって同胞が殺されることだ。
ところが泪は、自分が殺されることを願っている。
国のために従った命令は、泪にとって、自分を許せなくなる行為でもあった。

氷菜を思う気持ちは、子を守る行動ではなく、自分が殺されることを願う形で残される。
国を保つための命令は、外へ捨てられる子だけでなく、従う者にもこのような傷を残すのだ。

雪菜は、守られる側から国の存続を問い直す

雪菜は、心まで凍らせなければ長らえない国なら滅んでしまえばいい、と飛影に話す。
同胞として守られた雪菜が、その国の存続を否定している。

心まで凍らせて長らえる国なら滅んでしまえばいいと話す雪菜
引用:冨樫義博『幽☆遊☆白書』第18巻(集英社)

飛影にとって氷河の国は、自分を捨てた国だ。
雪菜にとっては、自分を同胞としながら、兄を捨てた国である。
国が兄を忌み子と決めても、雪菜にとっては大切な兄のままだ。
雪菜はその食い違いを、「心まで凍てつかせて」という言葉で責めている。

泪は国の命令に従い、自分が償うことを願った。
雪菜は、そのように心を殺すことを求める国の存続を否定する。
泪は自分を責め、雪菜は国のあり方を責める。
二人の反応は違うが、どちらの場合も、国の都合と大切な相手への思いは一致していない。

氷河の国は、氷女という種を守ろうとしている。
だが、泪が氷菜を思うことも、雪菜が兄を求めることも、その目的とぶつかれば退けられる。
仲間を守るためだと言いながら、仲間が誰を大切にしているのかは顧みない。
この国は、外に捨てる飛影だけでなく、内側に残す仲間にも、誰かを見捨てることを求めているのだ。

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