『銀と金』勝広はなぜ父と兄に殺し合いを命じたのか――「正常」という言葉の意味

針金を握った秀峰と勝輝に、互いの首を絞めるよう命じる勝広 銀と金
『銀と金』福本伸行。

勝広は、捕らえた父の秀峰と長男の勝輝に、針金で互いの首を絞めるよう命じる。
森田が止めると、勝広はその殺し合いを、神威家にとっては「正常」だと答える。
勝広は何を正常だと言っているのか。

神威家では、勝った者が得をし、弱い立場の者が踏みにじられてきた。
勝広の命令によって、父と長男は、自分が生き残るために家族を殺すかどうかを迫られる。
この場面では、家の中で肯定されてきた勝ち方を、父と兄自身が突きつけられている。

勝広は、父と兄にも家族を殺す行動を求めた

針金を握った秀峰と勝輝に、互いの首を絞めるよう命じる勝広
『銀と金』福本伸行。

勝広は秀峰と勝輝を向かい合わせに座らせ、二人に握らせた針金で互いの首を絞めさせようとする。
目の前にいるのは、秀峰にとっては息子であり、勝輝にとっては父だ。
それでも勝広は、生き残りたければ、その家族を殺せと急かす。

勝広が二人を撃つだけなら、秀峰と勝輝は殺される側に置かれる。
互いの首を絞めさせる命令では、二人自身が、自分の命を守るために家族へ手をかけることになる。
勝広は、父と兄自身にも人を殺す行動を求めているのだ。

殺し合いを止める森田に、神威家にとっては正常だと答える勝広
『銀と金』福本伸行。

森田はこの命令を狂気だと受け取る。
勝広は、神威家では弱者を殺して勝つことが人生の基本だと返す。
勝広のいう「正常」は、相手を踏みにじって自分が勝つことを正しいとする、神威家の価値観を指している。

秀峰も、家長の地位を家族の殺し合いに結びつけていた

上の三兄弟のうち二人を殺し、残った一人を家長にすると告げる秀峰の手紙
『銀と金』福本伸行。

勝広が現れる前、秀峰は上の三人の息子に、二人を殺して残った一人を家長にすると伝えている。
秀峰自身が、兄弟の命を奪って勝ち残ることを、家長になる条件にしていた。
父と兄に殺し合いを命じる勝広は、秀峰も求めた「家族を殺して勝つ」という条件を、この場で二人に課している。

息子たちを競わせてきた秀峰のもとで、低く扱われた勝広は虐待を受けてきた。
五男の邦男は部屋に閉じ込められ、学校にも行けず、下男として扱われていた。
神威家で弱い立場に置かれることは、家長になれないというだけでは済まなかった。
勝広たちの生活や尊厳まで奪われていたのである。

邦男が部屋に閉じ込められ、学校にも行けず下男として暮らしてきたことを語る勝広
『銀と金』福本伸行。

森田が狂気だと叫ぶ行為を、勝広は神威家の生き方につながるものとして語る。
針金を握らされる父と長男の姿は、家族を競わせてきた神威家の考え方が、二人自身の命に返ってくる場面なのだ。

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