殺人鬼の有賀研二を見張る森田鉄雄に渡されたのは、弾の入っていない拳銃だった。
森田は銃口を向けながら、これだけで本当に大丈夫なのかと不安になる。
いざというときに撃てない銃では、心細いのも当然だ。
それでも監視する側が銃を空にしておくのは、有賀に奪われたときの危険を考えているからである。
見張りが持つ武器は、有賀の武器にもなりうる。
その危険を避けようとした監視は、組員たちが身を守るために持ち込んだ武器によって崩れていく。

見張りに撃たれると思わせて、有賀を威嚇する
森田たちの仕事は、捕らえた有賀を生かしたまま、警察との取引まで見張ることだった。
監視する側は、弾が入っているように見せて有賀を威嚇する。
襲えば撃たれると思わせて、有賀の動きを抑えようとする。
一方で、銃を奪われても、その銃で撃たれることはない。
相手を脅す役目を残しつつ、有賀の手に実弾入りの銃が渡る危険を避ける考えである。
ただし、森田自身は弾がないと知っている。
銃を持つ形にはなっていても、有賀が襲ってきたときに撃って止めることはできない。
森田は、自分が撃てないことを有賀に悟られないようにしなければならない。
自分を守る武器が、有賀を武装させてしまう
組長の原田は、実弾入りの銃やナイフを持たずに監視するよう、組員たちへ指示する。
ところが組員たちは、有賀を恐れ、ナイフや実弾入りの拳銃を隠し持つ。
有賀に襲われるかもしれない部屋で、自分を守るものが欲しくなったのだ。
組員たちの行動は、その場の自分を守るためのものだった。
だが、有賀は見張りを襲い、持ち込まれた武器を奪っていく。
ナイフを手に入れ、続いて実弾入りの拳銃まで奪うと、部屋の外にいる組員たちを撃ち殺す。
弾を抜くことで避けたはずの危険が、別の拳銃によって現実になってしまう。

有賀の襲撃を警戒する組員たちと、武器を奪われる危険を警戒する監視の方針。
どちらも有賀を恐れているが、その恐れに対して取る行動が食い違っている。
各自が安心するために増やした武器が、有賀に奪われ、ほかの見張りまで襲う凶器になった。
空の拳銃は、森田を有賀より強くする道具ではなかった。
銃で脅しながらも、相手へ実弾を渡さないためのものだった。
しかし、ほかの見張りが武器を持ち込めば、有賀はそちらから凶器を手に入れられる。
森田の銃だけを空にしていても、監視全体は守れない。
自分を守ろうとする組員たちの行動が、全員を危険にさらす結果になったところに、この監視の破綻がある。


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