有賀研二に襲われた森田鉄雄を救い、病院へ運んだ平井銀二。
その銀二が、入院中の森田にしばらく別れようと告げる。
救ってくれた人のそばで、これからも働けると思えば、突然の別れは冷たく感じられる。
銀二が森田に求めたのは、自分の力で大金を稼ぐことだった。
一人前になったら、また組もうという話である。
しかも銀二は、去る前に森田をひと芝居でだまし、稼ぐための手がかりまで残している。
別れの言葉とトランクの仕掛けを合わせて読むと、銀二が森田を送り出した理由が分かる。
「悪党になる」と決めた森田に、銀二が求めたこと
病院で森田は、まっとうな仕事への誘いを断る。
命の危険に遭った後も、裏の世界で生きるつもりだった。
「オレは悪党になる」と言い切る森田には、銀二たちへの憧れがある。

ここまで森田は、銀二に誘われた仕事で力を発揮してきた。
仕手戦では機転を利かせ、有賀との死闘でも抵抗を続けたが、最後に命を救ったのは銀二だった。
銀二と同じ世界にいたいという気持ちは強くても、一人で仕事を見つけて大金をつかむ力は、これから示さなければならない。
銀二の別れには、再会の条件が付いている。
自力で稼いで成長した森田と、改めて組むための別れなのだ。
森田は、銀二が連れていってくれる勝負を待つ立場から、自分で勝負を探す立場へ進むよう求められる。
トランクに「当たり」があると信じた森田
銀二は餞別を渡す際にも、森田を試す。
森田に提示されるのは、確実に5000万円を受け取るか、5億円かゼロかの二択に挑むかという選択だった。
森田は後者を選ぶが、自分が選ばなかった側のトランクを開けさせると、そこには札束が詰まっていた。
森田は、5億円を取り逃がしたと受け止め、打ちのめされる。
銀二は、まだ大金をつかむにふさわしくない森田から金が逃げたのだと語り、その場を去る。

ところが、残されたトランクにも札束が入っていた。
本物の万札は表面だけで、その下に詰めてあったのは新聞紙だった。
銀二は、どちらにも5億円を用意していなかったのである。
森田は最初、両方とも空なのではないかと疑い、もう一方を開けさせた。
疑うこと自体はできていた。
それなのに札束が見えた途端、森田の頭は「自分が外れを引いた」という思いでいっぱいになる。
中身を調べるところまで、注意が続かなかった。
この失敗は、運が悪かったという話では済まない。
森田は、銀二が提示した「片方に5億円がある」という話を、途中から疑えなくなっていた。
銀二はその隙を、森田自身に体験させたのである。

銀二が残した、稼ぐための手がかり
トランクには、銀二の手紙も入っていた。
手紙で銀二は、欲望で頭がいっぱいになると注意力が失われると説く。
その隙をつけという教えは、森田がいま味わった失敗とぴたりと重なる。
自分がだまされた理由を知ることが、今度は人の隙を見つける手がかりになる。
銀二は、見せかけの札束を使い、本物の金をつかむよう森田に求めている。
大金を欲しいと叫ぶだけでは、トランクの中身は新聞紙のままだ。
誰のどんな隙をつけば金になるのかを考え、動く役目は、これから森田が担う。
銀二は森田の命を救った後、自力で稼ぐ課題を出した。
再会を約束し、だましの手口を教え、そこから先を森田に任せた。
屋上での別れは、銀二に憧れる森田が、銀二と仕事を組める男になるための試練だった。
森田がその後に見せる工夫については、森田の才能を読む記事でも扱っている。


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