『銀と金』伊沢はなぜ「悪」を演じるのか?銀二が評価した政治家の力

伊沢敦志と対面し、竹本会のナンバー2だと気づく森田 銀と金
『銀と金』福本伸行・仕手株編。

『銀と金』の伊沢敦志は、善人らしく振る舞うことで人を集める政治家ではない。
銀二は、伊沢が悪であることを、能力の証明にしていると見る。
手段を選ばず結果を出せる人物だと周囲に示し、それを人を集める力にしているのだ。

伊沢の「悪」は、顔つきや威圧感だけの話ではない。
政治を動かし、金を作り、周囲の欲望に応える実行力と結びついている。
銀二が伊沢を買う理由を追うと、悪党が人に頼られる仕組みが見えてくる。

伊沢敦志と対面し、竹本会のナンバー2だと気づく森田
『銀と金』福本伸行・仕手株編。

伊沢は、利益を届ける力を見せている

伊沢の考え方がよく表れるのが、政治家を動かす金についての会話だ。
伊沢は、人は建前だけでは動かず、実利で動くと銀二たちに話す。
政治家が口にする理念の奥には、自分に何をしてくれるのかという要求がある、という見方である。

伊沢にとって、金は欲の強い政治家たちをつなぎ留め、政権を維持するために要る。
その利益を用意できるから、伊沢のもとに人が集まる。

銀二のいう能力の証明も、この話とつながる。
伊沢は、実際に金や権力を手に入れ、それを周囲へ回せる人物だと示している。
伊沢についていく人間にとっては、自分の望みをかなえてくれる力が重要なのだ。

法案の駆け引きが、そのまま金を生む

政治改正法案をめぐる動きには、伊沢の実行力と危うさが同時に表れる。
伊沢は、法案をいったん否決させ、後から成立させる流れを仕組む。
そして株価の下落と上昇を利用して利益を得る。
政治を動かす側の伊沢が、その結末を先に知って株を売買するのである。

この行為に憤るのが、帝日銀行の頭取・土門だ。
土門は、伊沢のやり方を自由経済への裏切りとして責める。
伊沢はそれに対し、政権を維持するためには莫大な金が必要だと説明する。

帝日銀行頭取の土門猛
『銀と金』福本伸行・土門猛。

同じ利益を前に、土門はその取り方に怒り、銀二は伊沢の手腕に感心する。
伊沢には大きな金を作る能力があるが、そのために土門が許せない手段も使っている。

銀二自身も、伊沢の力を必要としている

銀二には、自分の野望を実現するために政治の力が必要だ。

銀二は、伊沢が政界を支配した後には、経済界の支配を自分に任せてほしいと持ちかける。
その手段として語るのが、銀行による企業への融資をチェックする仕事を、民間へ委ねさせる構想だ。
銀二がその仕事を握れば、企業は融資額を左右する銀二の判断を無視できなくなる。

銀行を押さえることが無尽蔵集金システムの鍵だと語る銀二
『銀と金』福本伸行・第63話。

まだ実現していない構想だが、銀二が伊沢に何を求めるかは具体的だ。
伊沢には政治を動かしてもらい、銀二はその仕組みを使って経済を支配する。
伊沢が銀二に肩入れの見返りを尋ねると、銀二はこの構想を明かす。
二人の協力は、それぞれが何を得るかを交渉する関係になっている。

伊沢の「悪」は、周囲に利益を与えられる力を見せる態度である。
銀二の評価は、その力への感心であり、そこに自分の野望を乗せようとする者の評価でもある。
伊沢を高く買う銀二自身も、伊沢の政治力から利益を得ようとしているのだ。

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