『エリア88』の新谷かおるさんは、師匠の松本零士さんから、飛行機をキャラクターとして描くよう教わりました。
被弾の跡を、人が負傷した姿のように描く考え方です。
その教えの具体例として、新谷さんが挙げたのが、仕事場での模型作りの思い出でした。
きれいに組んだ模型に、師匠が被弾の跡を加えた
新谷さんは、松本さんの零時社でアシスタントをしていました。
2023年の本人インタビューで、松本さんが買ってきたプラモデルを組み立てた思い出を語っています。
新谷さんは丁寧に仕上げますが、松本さんは、工場から出たばかりの新品のようだ、と指摘しました。
松本さんは、きれいにできた模型へ汚しを加え、さらに線香の火で、機体に被弾の跡をつけてしまいます。
戦場から帰ってきた飛行機はこういうものだ、と伝えるためでした。

新谷さんが少女漫画から少年漫画へ進む転機にも、松本さんとのやり取りがありました。
仕事場で教わったのは、進む方向だけでなく、機体をどう見るかということでもあったのです。
機体から流れるオイルを、血のように描く
松本さんの教えでは、戦闘機も被弾すれば悲鳴を上げ、傷ついたところから血のようにオイルを流します。
新谷さんは、そうして飛行機をキャラクターと捉える考え方が、自分の作品に大きく影響したと話しています。
新谷さんの『RAISE』には、B-17爆撃機に乗る人々が登場します。
公開されている画集の見本にも、大きく描かれた機体のそばに、機内の乗員たちの顔や会話が載っています。

新谷さんは同じ取材の別の部分で、この作品では、爆撃に命運を賭けた男たちの思いを台詞に託したかったと説明しました。
空を飛ぶ機体と、それに乗る人々のドラマが、一緒に描かれています。
『エリア88』では、傭兵ごとに似合う搭乗機を選んだ
『エリア88』の機体選びにも、人物との関係があります。
新谷さんの説明によると、傭兵それぞれのキャラクターに合わせて、似合う飛行機を用意していました。

新谷さんは、多種類の機体を一つの基地に集めることは、現実には整備などの問題があるとも話しています。
そのうえで、乗りたい飛行機を選んで乗れる世界を、娯楽として描きました。
機種の多さは、登場する傭兵たちの個性と結びついていたのです。
銃も、持つ人物を表すものに
松本さんから受けた教えは、飛行機以外にも続いています。
2024年のインタビューでは、新谷さんは、銃もキャラクターだと考えていると語りました。

『砂の薔薇 デザート・ローズ』では、国際色豊かな女性隊員たちを描くため、それぞれの人物を象徴する銃を持たせています。
飛行機を選ぶときと同じように、誰が持つかを考えて、道具を描いていたのです。
新谷さんが描いてきた機体は、『新谷かおる航空機グラフィティ 著者が語るビジュアルガイド』にまとめられています。

まとめ
松本さんが模型に加えた傷は、戦場を通った機体として見るためのものでした。
新谷さんの中では、飛行機も銃も、登場人物とともに物語を担う存在になっています。


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