森山大輔さんの『クロノクルセイド』と『ワールドエンブリオ』は、どちらも主人公たちが異形と戦う漫画です。
冒頭を比べると、怪物と向き合う主人公の立場に大きな違いがあります。
ロゼットとクロノは悪魔祓いを仕事にする二人で、天海陸は怪事件の事情を知らずに巻き込まれる少年です。
この違いは、説明される設定だけでなく、人物と怪物をどう配置するか、手元の道具をどう見せるかにも表れています。
2012年の『森山大輔画集 CHRONICLE』には、この二作品の絵が収録されています。
同じ作者の代表作を見比べる楽しみは、カラー絵だけでなく、漫画の最初の事件にもあります。
今回は、二作品の冒頭の事件から、その始まり方と作画を比べてみましょう。
港へ来た悪魔祓いと、病院へ来た少年
『クロノクルセイド』は、1924年のニューヨークから始まります。
ロゼットは港で燃える船を前に、電話で修道会へ応援を求めます。

修道会からは、現場に近い人員がロゼットたちだけだと告げられます。
ロゼットは助手のクロノを起こし、事件へ向かおうとします。
悪魔が出たこと自体は二人の仕事の範囲で、まず問題になるのは、応援もなく対処しなくてはならないことです。
大きな事件を前にした電話のやり取りから、二人の仕事と騒がしい掛け合いが一緒に伝わってきます。
『ワールドエンブリオ』の陸が向かうのは、廃墟になった病院です。
手にしている携帯電話には、探している天音の写真が表示されています。
カラーの見開きでは、写真の中の病院と、陸の背後にある壊れた病院を見比べられます。

ロゼットの電話は、目の前の事件への応援を求める道具でした。
陸の携帯電話は、そもそもこの場所へ来るきっかけを与えた道具です。
誰かと連絡を取る小さな機械を人物の近くに置きながら、片方では仕事の状況を、もう片方では捜索の手掛かりを見せています。
時代と服装が変わるだけでなく、電話から物語へ入る順序も変わっているのです。
陸の携帯が鳴ると、仲間の表情も変わる
陸は病院で、幼なじみの洋平と再会します。
再会した洋平が怪物と戦う側だとは、陸にはまだ分かりません。
陸は天音について尋ねられても、本当の事情をすぐには話しません。
陸が隠していることと、洋平が知っていることが、会話の中に同時に残ります。
携帯電話が一斉に鳴り出す場面では、その違いが顔にも表れます。
陸は何が起きたのかと戸惑い、洋平は電話に出るなと強く止めます。

ロゼットとクロノは、応援の有無や悪魔への対処を話しながら動きます。
陸の場合は、周囲の人物が何を知っているかも、最初の謎の一つになります。
『クロノクルセイド』が二人の仕事を追って事件へ入るのに対し、『ワールドエンブリオ』は、陸が理解できないことを残しながら事件へ進みます。
大きな悪魔と、人の姿が残る怪物
『クロノクルセイド』の港には、人よりはるかに大きな悪魔が現れます。
消防隊員や車と並べて描かれるため、人々が立ち向かう怪物の大きさが分かります。

『ワールドエンブリオ』では、陸を脅していた男たちの姿が変わります。
先ほどまでの服や頭部が残る一方で、口や手足は人間の形から外れていきます。
怪物になった男たちは、窓の向こうから陸へ近づいています。

陸の背後へ迫る怪物には、さっきまで会話していた男たちの服が残っています。
港の悪魔を人や車と並べる描写に対し、こちらは、近くにいた人間が変わってしまう怖さを見せます。
銃も刃も、使う人物と一緒に見せる
二作品とも、戦う人物の手元へ寄る場面があります。
ロゼットの銃は、十字の印や握る手と一緒に描かれ、悪魔祓いの仕事をする姿を見せています。

『ワールドエンブリオ』では、手元の装置を見せた後、刃を構える洋平の大きな姿が続きます。
武器を持つのは、事情を知らない陸を守る人物です。

どちらも、武器だけの説明図で済ませず、実際に握る手や、構える人の姿へつなげています。
ロゼットは自分で悪魔に向き合い、洋平は事情を知らない陸の前に立ちます。
似た細かさで武器を描いていても、その武器を持つ人物が主人公なのか、主人公を守る人物なのかで、場面の関係は変わります。
『クロノクルセイド』の銃と悪魔祓いの効果を詳しく見ると、手元の武器から大きな戦闘場面へつなぐ描写も追えます。
まとめ
二作品の冒頭には、細かく描かれた道具と、そのすぐ近くにいる異形があります。
悪魔への対処を仕事にしているロゼットたちと、怪事件の仕組みを知らない陸では、怪物と出会う場面でも、読み進めるときの疑問が変わります。
二人がどう対処するのかを追う楽しみと、少年の周りで何が起きているのかを知る楽しみ。
森山大輔さんの二作品を続けて読むなら、怪物の造形に加えて、誰と一緒にその怪物を見るのかにも目を向けてみると、始まり方の違いを楽しめます。


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