『銃夢』のガリィは、最初から主人公として考えられた人物ではありません。
原型は、男性サイボーグを主人公にした企画に登場する女性の警察官でした。
編集者がその脇役に注目し、主役にしてみようと提案したことから、『銃夢』につながる短編が生まれています。
ただ、ガリィを主役に変えた時点で、クズ鉄町や機甲術まで完成していたわけではありません。
少女をどんな世界に住まわせ、どう戦わせるか。
木城ゆきとさんと編集者の試行錯誤をたどると、連載版のガリィができあがるまでには、いくつもの変更がありました。

男性主人公の『RAINMAKER』に、脇役のガリィがいた
木城さんは1980年代から、サイボーグを題材にした短編を描いていました。
2015年の本人インタビューでは、その頃の主人公はいずれも男性だったと振り返っています。
ガリィが登場したのは、1989年の絵コンテ作品『RAINMAKER』です。
男性のボックス・ゴドーを主人公とする企画で、ガリィは彼を追うサイボーグの警察官として登場しました。
スクラップの中からイドに拾われる少女という、連載版の始まりとは異なる役でした。
『RAINMAKER』は、何度も書き直されながら、完成原稿にならなかった企画です。
木城さんが当時を記した回想では、男性主人公を自分と重ねすぎてしまい、物語を客観的に動かしにくくなったことも語られています。
編集者の提案で、ガリィが短編の主人公になる
その企画を覚えていたのが、編集者のトミタさんでした。
トミタさんは木城さんに、女性サイボーグの警察官を主人公にして描いてみることを勧めます。
木城さんは、もともとアイデアやテーマを先に考えるタイプだったため、人物から始める作品は普段の作り方と違っていました。
それでも、トミタさんの熱意を受け、ガリィを主人公にした短編の絵コンテを作りました。
木城さんは2019年のインタビューで、女性を主役にすると、男性主人公に自分を重ねすぎていた時とは違い、物語を客観的に見られるようになったと説明しています。
主役の変更は、木城さん自身が物語を作りやすくなる変化でもありました。
この短編が、1990年の『プロト銃夢』です。
舞台は近未来の日本で、ガリィは民間会社に所属する武装エージェントでした。
新人オペレーターのルウ・コリンズと組み、ビルを占拠したハッカーに立ち向かいます。
ガリィは銃を使い、ハッカーに五感を乗っ取られて仮想現実へ落とされるため、「銃」と「夢」が内容に結び付いていました。
この短編にも修正が入り、一度の書き直しで連載版ができたわけではありません。
その後、『プロト銃夢』を読んだ編集長の判断によって、連載が決まります。
ガリィは、脇役から短編の主役となり、ようやく連載の主人公になるところまで来たのです。

記憶を失った少女に、クズ鉄町という舞台を作る
連載が決まっても、木城さんは『プロト銃夢』をそのまま描くつもりではありませんでした。
サイボーグにふさわしい舞台を考える中で、空中都市が地上から物資を吸い上げ、不要になったものを地上へ捨てる世界を思い付きます。
上にザレムがあり、その下にスクラップが堆積したクズ鉄町がある。
この構造によって、サイボーグが暮らす世界の姿が定まりました。
木城さんは、ガリィを記憶喪失にする理由も連載開始時の回想で説明しています。
初めから背景を台詞で説明するのではなく、ガリィと読者が同じ目線で世界を知っていけるようにするためです。
ガリィを再生させるイドには、少女を育て、導く大人の役割が与えられました。
原型では事件を捜査する側だったガリィが、連載版では世界を知るところから歩み始める少女になっています。
イドに助けられる結末から、ガリィ自身が戦う結末へ
連載版の第1話のネームでは、襲われそうになったガリィを、イドがロケットハンマーで助ける展開が考えられていました。
トミタさんは、ここでは主人公が戦うべきだと指摘します。
木城さんがガリィにパンチをさせる案を出しても、トミタさんは納得せず、『カムイ外伝』の飯綱落としのような必殺技を求めました。
記憶を失った少女に、どうすればそんな技を使わせられるのか。
この注文から、ガリィの身体には格闘術が残っていて、危機に直面すると反射的に技が出るという設定が生まれます。
それが機甲術、パンツァークンストでした。
少女が自分で戦うための設定は、同時に、ガリィにはどんな過去があるのかという疑問を生みました。
まとめ
ガリィを主役にした後も、木城さんは、少女が活躍する世界と戦い方を作り直していきました。
少女にふさわしい舞台を考え、読者と一緒に世界を知れる出発点を作り、助けられるだけで終わらない戦いを用意する。
ガリィを中心に据えて描き直す過程で、『銃夢』は、少女が自分の過去や生き方を探していく物語になっていきました。

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