平井銀二は、競馬で金を失った森田鉄雄に声をかけ、裏社会の仕事へ誘う。
後に大勝負で活躍する森田も、この時点では銀二の仕事の中身さえ知らない若者だ。
銀二は、何を見て森田を選んだのか。
森田を誘った理由は、後に森田を相棒として求めた理由と分けると読みやすい。
銀二には森田の境遇や身体の条件を利用する計画があり、仕事を重ねるうちに、森田自身の判断や強運にも期待するようになる。
銀二の説明を追うと、銀二の計画のために選ばれた若者が、共に勝負する相棒へ変わっていく過程が見える。

森田に説明した理由は「身軽さ」だった
森田がなぜ自分を誘ったのかと尋ねると、銀二は戸籍の謄本を調べたと答える。
銀二が挙げるのは、森田の両親が亡くなっており、兄弟も定職もないという境遇だ。
銀二は、こうした身軽な人間が自分の仕事に向いていると説明する。
銀二が森田に説明しているのは、勝負の腕前ではなく、裏の仕事へ身を投じやすい境遇だ。
この時の銀二の返答だけから、将来の名勝負師として森田を見込んでいた、とまでは分からない。
銀二が広瀬に語った、もう一つの計画
森田本人への説明だけでは、銀二の狙いは分からない。
有賀との戦いにつながる仕事の前に、銀二は広瀬へ森田の適性を話している。
その時、銀二は境遇や裏社会への素質と並べて、森田の「体(ボディー)」がぴったりだと挙げる。

さらに銀二は、森田がある老人の巨大な資本を引き継げるかもしれないと語る。
銀二によれば、森田はその老人が示した難しい条件を、生まれながらに満たしていた。
森田を仕事に加えることは、この計画にもつながっていたのだ。


ただし、「体」がどのような条件を指すのかは、この会話では明かされない。
銀二は身体の条件と裏社会で生きる素質を別々に挙げているので、「強運の持ち主だから体がぴったりだった」と一つにまとめることもできない。
ここで分かるのは、銀二が森田を誘う背景に、森田の才能への期待だけでは説明しきれない計画があったことだ。
後に銀二が欲しがったのは、森田の判断だった
森田が西条とのポーカー勝負を終えた後、銀二は森田の引き際を高く評価する。
森田は西条の残りの金まで取り尽くそうとせず、その場を離れた。
実際には、森田が去った後で警察が踏み込んでおり、長居すれば稼ぎを失うところだった。
森田は自分の判断を偶然だと言う。
銀二は、その偶然が欲しいと返す。
この会話では、銀二が求めているものは、謄本で調べられる境遇や身体の条件ではない。
勝負の中で、森田が実際に示した判断である。

銀二は、次の勝負では自分と一緒に戦おうと森田を誘う。
自分の力に森田の強運を加え、二人で国の牙城を撃つという言葉には、森田を頼りにする銀二がいる。
森田は、銀二の計画に合う条件を持った若者から、銀二が自分の勝負へ連れていきたい男になった。
銀二が最初に森田へ声をかけた理由には、最後まで明かされない部分が残る。
一方で、銀二が森田と組み続けたいと思った理由は、二人の仕事を通じて具体的になる。
「使える条件を持っている」ことと、「この男となら勝負をしたい」ことの間に、森田が自分の行動で得た評価がある。
その違いを読むと、銀二の期待だけでなく、森田が相棒の位置まで上がった重みも見えてくる。


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