和月伸宏はなぜ『エンバーミング』で人造人間を描いた? 怪物への愛着と「自分で選ぶ」物語

和月伸宏「エンバーミング」第1巻の表紙 和月伸宏
『エンバーミング―THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN―』第1巻(和月伸宏/集英社)

和月伸宏さんが『エンバーミング』で人造人間を描いた理由は、フランケンシュタインの怪物を以前から描きたかったことと、生まれを選べなかった人物がその後の生き方を選ぶ物語への関心です。
本人は、怪物にロボットにも通じる魅力を感じていたと話しています。
その好きな題材で暗い長編にも挑み、完結後には、描いてみて初めて分かった難しさを語りました。

一番好きな怪物はフランケンシュタインだった

和月さんは2016年のインタビューで、吸血鬼、狼男、フランケンシュタインの怪物の中では、最後の一つが一番好きだと話しています。
ロボット好きでもある和月さんは、死体から創られた怪物にロボットに似た面を感じ、いつか描きたいと思っていました。
ここで和月さんが語っている「フランケンシュタイン」は、怪物を創ったヴィクターではなく、創られた側の怪物です。

ロボットへの関心は、この作品のために急に生まれたものではありません。
和月さんは同じインタビューの別ページで、子どものころから『機動戦士ガンダム』や『ゲッターロボ』に親しみ、初期の投稿作でもロボットを描いたと振り返っています。
少年時代から好きだったものが、怪物を描く入口になりました。

1831年版『フランケンシュタイン』の挿絵。怪物と、その姿を見る創造主
メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』1831年版の挿絵。和月作品の原稿ではありません。

生まれを選べなくても、その先は選べる

和月さんが挙げた理由は、怪物の姿だけではありません。
本人は、望まれて生まれたわけではない人物が、自分の生き方や死に方を選んでいく話も好きだと語っています。
誰かの息子や特別な血筋という設定は、和月さんの漫画にはほとんどないとも説明しました。

『エンバーミング』のジョン=ドゥには、「最初の人造人間」だったという特別な出自があります。
しかし和月さんがインタビューで重視したのは、特別な出自そのものではなく、その出自がジョンを苦しめることでした。
生まれた事情を自分で変えられない人物が、その事情を抱えたまま何をするか。
人造人間という題材は、和月さんが好きな人物像を描く場所にもなったのです。

読切で描いた怪物を、長い物語へ広げた

和月さんは『武装錬金』の連載を終えた後、特別読切『エンバーミング -DEAD BODY and BRIDE-』を描きました。
この読切は『武装錬金』最終10巻に収録されています。
その後、月刊誌『ジャンプSQ.』の創刊号から、連載版『エンバーミング -THE ANOTHER TALE OF FRANKENSTEIN-』が始まりました。

連載版では、集英社の第1巻紹介によると、人造人間に家族を殺されたヒューリーが復讐を求めます。
一方で、ジョン=ドゥ自身は人造人間です。
怪物を追う人間と、怪物として生きる人造人間の両方が登場します。
この長編で人造人間は、ただ倒すべき相手としてだけ置かれていません。

和月伸宏の漫画『エンバーミング』の公式ビジュアル
ジャンプSQ.『エンバーミング』作品紹介の公式ビジュアル。

暗い物語を描いて分かった、自分との相性

和月さんは2016年のインタビューで、単行本第1巻に書いた「ディープでダークな和月漫画」という目標を振り返っています。
怪物を題材に、復讐や死を描く方向へ自分の漫画を進めてみたのです。
ところが完結後のインタビューでは、暗い作品を読むのは好きでも、自分で長く描くと気持ちが引きずられたと振り返っています。

和月さんは「エンタテインメントの基本は笑顔とハッピーエンド」という考えも語り、『エンバーミング』は自分の基本から少し外れたかもしれないと述べました。
ただ、作品を失敗だったと決めたわけではありません。
完結から約1年半後の取材でも評価は保留し、この経験を次の作品に生かせるかも含めて考えたいと話しています。

和月伸宏作『エンバーミング』第10巻の表紙
集英社『エンバーミング』第10巻の書影。

まとめ

和月さんにとって人造人間は、ロボットを思わせる好きな怪物であり、生まれを選べない人物のその後を描ける題材でした。
その題材を暗い長編に育てるうちに、和月さんは自分の娯楽観との距離を感じるようになりました。
好きなものを描くことと、それをどう描き続けるか。
『エンバーミング』は、和月さんにとってその二つを考える作品にもなったのでしょう。

この記事もおすすめ

コメント

アクセス解析について
タイトルとURLをコピーしました