和月伸宏は『サムライスピリッツ』から何を学んだ? 『るろ剣』の絵と技への影響

『るろうに剣心』11巻の表紙。和月伸宏/集英社 和月伸宏
『るろうに剣心』11巻の表紙。和月伸宏/集英社。

和月伸宏さんは『サムライスピリッツ』から、侍の人物をもっと自由に描く発想と、墨絵の勢いを取り入れました。
『るろうに剣心』連載開始後にこのゲームを遊び始め、格闘ゲーム全般からも、構えや技で人物の個性を見せる方法に刺激を受けています。

仕事場の仲間に連れられ、ゲームセンターへ

和月さんは2016年の本人取材で、『サムライスピリッツ』が出たころから気になり、関連書籍を買っていたと話しています。
『るろうに剣心』の連載が始まってすぐのころ、ゲーム好きのスタッフに誘われて初めてゲームセンターへ行き、そこで遊んで熱中したそうです。

仕事場の隣にゲームセンターがあり、スタッフが起きる前の朝に一人でワンコインだけ遊ぶこともありました。
仕事が終われば、スタッフと格闘ゲームで対戦したそうです。
『サムスピ』以外には『ヴァンパイア』シリーズにも熱中したと振り返っています。

牙神幻十郎が広げた、侍の見た目

人物デザインで和月さんを最初に驚かせたのは、牙神幻十郎でした。
覇王丸、橘右京、柳生十兵衛を見て、侍の格好よさには一つの範囲があると考えていたところへ、幻十郎が別の姿の侍として現れたといいます。
和月さんは、自分の想像を超える人物に出会った感覚を語っています。

『るろ剣』の初期には、アニメに近い自身の絵を時代劇に収めようとしていました。
幻十郎との出会いを経て、明治を舞台にしても髪形や服装をもっと大胆にできると思えるようになり、人物を時代劇の枠から広げていったそうです。
和月さんが具体例に挙げたのは、逆立った髪やサングラスでした。
ゲームの一人の剣客が、漫画の人物をどこまで自由に描けるかという考えを変えたのです。

白井影二の墨絵が、画面の幅も広げた

人物の形と並んで、和月さんが影響を挙げたのが白井影二さんの墨絵です。
白井さんは『サムライスピリッツ』のイラストを手がけ、SNKの原画紹介には、墨と筆で描いた1995年の販促画も公開されています。
この画面では、覇王丸の髪と背後の流れが、太くかすれた黒い筆跡で形づくられています。

白井影二が描いた『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』の覇王丸
『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』の販促画。
『るろ剣』連載開始後の1995年に白井影二が描いた作例(SNK)。
SNKの原画紹介。

この販促画は、白井さんがシリーズで用いた墨筆表現の一例です。
和月さんは白井さんの墨による迫力に驚いたと話し、自分も『るろ剣』では墨を勢いよく引くと説明しています。

『るろうに剣心』11巻167ページに掲載された人物と大きな筆文字
『るろうに剣心』11巻167ページ(和月伸宏/集英社)。
2016年の和月さんへの取材に掲載された原稿。

白井さんの絵では、覇王丸の髪と背景へ太い墨跡が広がります。
『るろ剣』のページでは、左の大きな「誠」の荒い筆文字に対し、斎藤の衣服は細い斜線を重ねて描かれています。
人物の周囲を囲む黒と、衣服の細い線との対比にも目が向きます。
二枚は構図こそ違いますが、大きな黒い形と細い人物の線を組み合わせた画面を見比べられます。

格闘ゲーム全般から学んだ、構えと技の個性

和月さんは『サムスピ』の話から、格闘ゲーム全般が漫画に与えた刺激へ話を広げています。
格闘ゲームは長い会話で人物を説明しにくいぶん、構え、動き、戦い方で個性を見せます。
その表現を見て、戦い方だけで人物が分かることに感心したと語っています。

『るろ剣』でも、誰もが何でもできるようにはせず、人物ごとに分かりやすい特色を持たせたいと考えました。
技については、昔の剣術を調べても、漫画の画面では見た目の衝撃が弱いと感じたそうです。
覇王丸の弧月斬のような現実離れした格好よさから発想を広げ、志々雄真実の紅蓮腕にもゲームの影響があると本人は認めています。

一方、斎藤一の牙突を作中で「対空」と呼んだことは、後年の取材で、今なら直したいと振り返りました。
和月さんは、派手な技への刺激と、ゲーム風の言葉を時代劇に置いたことへの反省を分けて話しています。

斎藤一の牙突を『対空』と呼ぶ『るろうに剣心』7巻106ページ
斎藤一の牙突を「対空」と呼ぶ『るろうに剣心』7巻106ページ(和月伸宏/集英社)。

後には『サムライスピリッツ零』の人物デザインに参加

影響を受けたシリーズとの関係は、遊ぶだけで終わりませんでした。
和月さんは同じ取材で、シリーズ3作目『サムライスピリッツ 斬紅郎無双剣』の制作に関わり、その後独立した人が妻の友人だったと話しています。
その人が『サムライスピリッツ零』を制作する際に声をかけられ、人物デザインに参加しました。
SNKの作品紹介によると、同作の発売は2003年です。

まとめ

和月さんにとって『サムライスピリッツ』は、連載中の『るろ剣』で、侍の人物をもっと自由に描けると気づかせたゲームでした。
白井さんの墨絵に画面の作り方を学び、格闘ゲーム全般からは構えや技で人物を立たせる発想も得ています。
明治の剣客をどう描けば読者を驚かせられるか、その選択肢をゲームが広げました。

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