斎藤一は、剣心が掲げる「不殺」を受け入れて仲間になったわけではない。
東京で再び刀を交えたとき、斎藤は剣心を人斬り抜刀斎の戦い方へ引き戻しかけた。
それほど激しく対立した二人が、京都では共に志々雄一派を追う。
斎藤は誰に従うかではなく、誰を斬るべき悪と見るかで動いていた。

斎藤が従うのは、政府でも剣心でもない
斎藤は幕末には新選組の隊士として維新志士と戦い、明治には「藤田五郎」の名で警官になる。
かつて敵だった明治政府のもとで働く姿は、勝った側に従ったようにも見える。
だが斎藤は、政府に属することと、政府のすることを正しいと認めることを分けている。
権力者が私欲で国を損なうなら、その権力者も斬るというのが斎藤の立場だ。
斎藤は幕府側が敗れたあとも「悪・即・斬」を捨てない。
新政府の警官という立場は、その信条を明治でも貫くために使っている。
だから剣心と行動を共にするときも、斎藤が「不殺」へ転向したとは言えない。
斎藤は志々雄を止めるべき相手と判断し、その戦いで剣心の力を必要とした。
斎藤が誰と組むかを決めることと、斎藤が自分の信条を変えることは別なのである。
宇水との戦いでは、二人の道が分かれる
志々雄一派の甲鉄艦「煉獄」を前に、剣心・斎藤・左之助は並んで行動する。
志々雄を止めるという目的では、三人の進む方向は一致している。

しかし志々雄の拠点で宇水が立ちはだかると、剣心たちは先へ進み、斎藤が宇水と戦う。
斎藤は宇水に、不殺を続ける剣心がそばにいては宇水を殺す邪魔になると話す。
斎藤は剣心との違いを承知したうえで、宇水を殺す道を選んでいる。
宇水から、これからも自分の道を貫けるのかと問われた斎藤は、死ぬまで貫くと即答する。

剣心が斎藤に宇水との戦いを任せたからといって、斎藤の殺し方まで認めたとは限らない。
人誅編では、斎藤が八ツ目無名異にとどめを刺そうとするのを剣心が止める。
志々雄を倒すためには協力する。
それでも目の前で斎藤が人を斬ろうとすれば、剣心は不殺を譲らない。
二人の協力には、こうした衝突が残っている。

剣心も、自分の勝利を正義の証明にはしない
では、剣心はなぜ自分と正反対の方法で戦う斎藤と並べるのか。
宗次郎に勝ったあと、剣心は「勝った方がすべて正しい」とは考えないと伝える。
勝者の考えが常に正しいのなら、それは志々雄の「弱肉強食」と同じになってしまうからだ。
剣心は不殺を貫くが、勝負に勝ったことを理由に、自分の生き方を他人への唯一の答えにはしない。
剣心は斎藤に不殺を誓わせることなく、志々雄を止めるため共に進む。
一方で、八ツ目を前にした剣心は斎藤を止めた。
剣心にとって、共に戦うことは、斎藤が人を斬るのを何度でも見過ごす約束ではなかった。
斎藤が断った、最後の決闘
旧本編の終盤、剣心は斎藤に決闘を申し込む。
斎藤はその申し出に応じず、決着をつけたかった相手は人斬り抜刀斎であって、今の剣心ではないと張に話す。
斎藤は「悪・即・斬」を捨てたのではない。
斎藤が見ている剣心の姿が、幕末に戦った人斬りとは変わったのである。
初めて明治の剣心と戦ったとき、斎藤は剣心をかつての抜刀斎へ引き戻しかけた。
最後には、その抜刀斎を今の剣心との決闘では見いだせないと判断した。
斎藤自身の信条は変わらず、剣心の不殺にも従わない。
しかし斎藤は、剣心がもはや自分の追った人斬りではないことを見ていた。
斎藤が変えたのは「悪・即・斬」ではなく、剣心への見方だった。
不殺へ賛成したわけではない斎藤が決闘を断るからこそ、剣心が過去の人斬りとは違う道を歩んだことが伝わってくる。


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