岡本倫の三作品に共通するもの――少女が背負う条件と『ノノノノ』の着想

ノノノノ第1巻の書影。スキー板を持つ人物。岡本倫、集英社。 岡本倫
『ノノノノ』第1巻/岡本倫、集英社。

『エルフェンリート』『ノノノノ』『極黒のブリュンヒルデ』は、SF、スキージャンプ、魔法使いの物語と、扱う世界が異なります。
三作品には、夢や命に関わる厳しい条件を抱えた少女たちが登場します。
岡本倫さんは、不遇な女の子の設定を個人的に好むと話しています。
『ノノノノ』の着想をたどると、岡本さんが競技を通じて何を描こうとしたのかも見えてきます。

逃亡、男装、薬――少女が背負うものは異なる

『エルフェンリート』第1巻に登場するにゅうは、研究所から逃げた突然変異体の少女です。
コウタとユカの家にかくまわれても、研究所の側は捜索を続け、特殊部隊も彼女を追います。
少女との出会いが、追跡の危険と結び付いている始まりです。

岡本倫『エルフェンリート』第1巻・電子版の書影
『エルフェンリート』第1巻/岡本倫、集英社。 出典

『ノノノノ』の少女は、男装してスキージャンプの世界へ入ります。
作中では、女性のままではオリンピックのジャンプ種目に出場できません。
競技で勝つことと、自分の正体を隠すことを、同時に抱えています。

ノノノノ第1巻の書影。スキー板を持つ人物。岡本倫、集英社。
『ノノノノ』第1巻/岡本倫、集英社。 出典

『極黒のブリュンヒルデ』の魔法使いたちは、特別な力を持ちながら、薬を飲み続けなければ生きられません。
特殊な能力に、生きるための切迫した条件を重ねた設定です。
この作品の原型となった読み切りについては、『きみとこうかん』から連載への組み替えでも詳しく扱っています。

極黒のブリュンヒルデ第1巻の書影。岡本倫、集英社。
『極黒のブリュンヒルデ』第1巻/岡本倫、集英社。 出典

『ノノノノ』の発想は、才能があっても活躍できない人物から

岡本さんは2015年の漫画作りのQ&Aで、ある映画の設定が『ノノノノ』を考えるきっかけだったと語っています。
本人が興味を持ったのは、主人公に才能があるのに、制度のために活躍できないという設定でした。
そこから、『ノノノノ』を描いていた時期の女子の五輪出場の制限に着目し、少女が男装してスキージャンプに挑む話を考えたと説明しています。

『ノノノノ』の少女は、競技の実力だけを示せばよい立場ではありません。
夢をかなえようとする行動に、男装して競技へ入る必要が重なります。
SFの特殊能力からスポーツの才能へ題材が移っても、その力を持つ少女が厳しい条件を抱える点ではつながっています。

岡本倫のスキージャンプ取材、ノノノノの着想、競技の原理を説明する2015年の漫画作りQ&A
岡本倫が『ノノノノ』の取材と着想を語った2015年のQ&A/集英社、シンマン賞第25回・第3週。 出典

岡本さん自身には、スキージャンプの競技経験はありませんでした。
北海道やバンクーバーでの取材を行い、ルールや競技の原理を描いて現実味を出したとも話しています。
自分で現場を訪れて初めて、監督席からは選手が着地する瞬間が見えないと気づいた例も挙げました。
人物の夢を妨げる条件を考え、実際の競技の仕組みを調べて物語にする。
『ノノノノ』は、その両方から作られた作品です。

苦境を描き切るために、終わりも考える

同じQ&A企画の第2週で、岡本さんは不遇な少女の設定を個人的に好むと話し、その人物を描き続けるときの考えも説明しています。
少女が最後に救われると自分で決めていれば、途中でどれだけ苦しい目に遭っても、終わりに救いがあると思って描き切れる、という説明です。
先に結末を考えることが、辛い境遇の人物を描くうえでも支えになるのです。
岡本さんが語った大まかなラストと毎週の展開の作り方にも、終わりを持ちながら途中を考える姿勢が見えます。

まとめ

岡本さんがSFからスポーツへ題材を変えても、少女が抱える条件は物語の大きな部分を占めています。
とくに『ノノノノ』では、才能のある人物が制度に阻まれる、という関心が作品の発想になりました。
ジャンルの違いと一緒に人物の境遇にも目を向けると、三作品に通じる岡本さんの関心が見えてきます。

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