『双亡亭壊すべし』は、実在した二笑亭から着想を得た作品です。
二笑亭は、昭和の初めに東京・深川に現れた、奇妙な建物でした。
建物の姿はすでに失われていますが、式場隆三郎の『二笑亭綺譚』には、その様子が記録されています。
不思議な建物への関心が、一軒の屋敷を壊す漫画へつながっています。

二笑亭は、東京・深川に実在した建物
二笑亭の様子を伝える本が、『二笑亭綺譚』です。
1939年に単行本となり、後年にも新たな調査や資料を加えて刊行されてきました。
『定本 二笑亭綺譚』の紹介には、建物と主人をたどる調査や、模型による再現、主人の旅行日記を収めたことが記されています。

二笑亭の記録は、外から見た姿だけではありません。
外観、間取り、家の中の設備などが、文章や図を通して残されています。
建物は失われても、その家がどんなものだったのかを、書物からたどれるのです。
家の中にもあった、風変わりな造り
『二笑亭綺譚』の公開抜粋には、和風と洋風を組み合わせた風呂が、図と文章で紹介されています。
普通の家とは違う造りが、生活のための設備にも及んでいました。
間取りを示す言葉だけでは想像しにくい設備も、挿絵を見ると、その形をつかむことができます。

二笑亭が壊された後、柳宗悦は『二笑亭綺譚』の跋で、建物は保存すべきだったと書いています。
柳は、式場の記録と残された写真が、その面影を伝えていることを評価しました。
一軒の奇妙な家は、建築や美術の面から見直したくなる対象でもあったのです。
藤田和日郎が描いたのは、壊せない屋敷を壊す話
藤田さんが漫画で描いた双亡亭には、空爆を受けても壊れないという謎があります。
藤田さんは2017年公開の本人インタビューで、なぜ壊れないのか、どう壊すのか、登場人物たちはなぜ壊そうとするのかを、読み進める興味として挙げています。
実在した二笑亭を知ることと、漫画の双亡亭の謎を解くことは、別の楽しみです。
藤田さんは不思議な建物を題材に、そこへ関わる人々の力や事情を組み合わせて、物語を作っていました。
集団を描く企画や、題名に込めた狙いは、『双亡亭壊すべし』の構成を紹介した記事で詳しく扱っています。
はこたゆうじの絵も、作品を支えていた
双亡亭に棲む坂巻泥努は、絵を描く人物です。
藤田さんは2021年の連載終了時のメッセージで、元アシスタントのはこたゆうじさんから、多くの絵を借りたことを明かしています。
その絵の不思議さと独特なユーモアが、作品の始まりにも終わりにも必要だったと、藤田さんは感謝を伝えていました。

藤田さんは、自分以外の作家が描いた絵も、この物語を作る材料にしていたのです。
藤田さんは同じメッセージで、芸術には描く人と鑑賞する人が必要であり、漫画も読まれることで完成すると話しています。
怪しい建物の話の中には、絵を作る人と、その絵を見る人の話もありました。
まとめ
『双亡亭壊すべし』では、不思議な建物が、空爆を受けても壊れない屋敷になり、その屋敷へ挑む人物が集まります。
二笑亭への興味を出発点に、藤田さんは、人物の活躍や絵の不気味さも楽しめる漫画を描いていました。
建物の謎を知りたいという興味が、人々がその屋敷へどう挑むかを見届けたいという興味にもつながる。
着想元を知ると、怖い家の話が、人物を追う物語へ広がっていく面白さにも目が向きます。

コメント