樹林伸が作画担当を選ぶときに見ていたのは、人物の表情や関係、その人が描こうとしている世界でした。
2021年の「MANGAオーディション」では、荒削りでも個性を見せてほしいと呼びかけ、選考後には絵の技術や漫画としての見せ方を伸ばす助言をしています。
実際の応募イラストへのコメントを読むと、どこに惹かれ、そこから何を期待したのかが具体的に分かります。

一枚の絵から、次に一緒に作る作品を考える
樹林さんは、『週刊少年マガジン』の編集者として漫画家と働き、後に原作者として独立した人です。
『GetBackers』では青樹佑夜という名義で原作を書いています。
編集者時代の藤沢とおるとの出会いも、一枚のイラストがきっかけでした。
樹林さんは描き手を紹介してもらい、原稿を見て、次の作品の構想を一緒に練りました。
藤沢さんとの仕事は、作品作りの相談へと続いていきました。
2021年のオーディションは、樹林さんが原作を書くミステリー漫画の作画担当を選ぶ企画でした。
最初の課題は、探偵と助手のオリジナルイラストです。
選考についての本人取材では、109作品の応募から27作品を選んだと説明しています。
評価したのは、絵から伝わる人物らしさと世界観でした。
二人の関係が、姿勢と表情から伝わる
雨宮理真さんの応募作では、手前の少年が書類を破りながら、こちらを見ています。
奥の男性は、ソファで眠っています。

樹林さんは、寝てばかりいる元探偵と、その探偵に頑張ってほしい助手という関係が伝わるところを評価しました。
少年の表情からは、少年らしさと賢さも感じたと話しています。
二人の顔に加え、何をしている人物かまで一枚の中で分かるのです。
nemutinさんの作品では、ソファに座る女の子の後ろで、男性が机に足を乗せてパソコンを開いています。

樹林さんが注目したのは、女の子の自然なポーズと、二人がいる場所の空気感でした。
パステルカラーの使い方にも、何だろうと目を向けたくなる魅力を感じています。
人物の見た目だけでなく、部屋での過ごし方や構図も、その世界を伝える材料になっていました。
涙を見て、理由を知りたくなる
鵙さんの作品では、手前の人物が涙を流しています。
樹林さんは、その人物がなぜ泣いているのかを知りたくなると話しました。

樹林さんは、背後の人物の魅力や、全体から感じる動きも評価しました。
一枚のイラストで漫画を描こうとする意識を感じたと話しています。
事情を知りたくなる表情が、物語への興味を生んでいるのです。
この選考で樹林さんが求めたのは、一枚から世界や話、動きが伝わることでした。
きれいな人物を描く力に加え、その人物の続きを見たくなる表現を見ています。
動きや色も、その人の長所として見る
近藤麦さんの作品は、バイクに乗る二人と、その上に描かれた会話が組み合わされています。

樹林さんは、バイクや人物の佇まいから感じるデッサン力、個性的な色使いを評価しました。
炉月さんの作品では、二人の人物と建物を、白や灰色、黒を使って描いています。

樹林さんは、黒・中間色・白のバランスに注目しました。
人物の表情と、全体から伝わる雰囲気の釣り合いも評価し、その感覚を漫画で生かしてほしいと期待しています。
同じ課題でも、関係を伝える構図、涙の表情、色の組み合わせなど、評価する長所は応募者ごとに違っていました。
個性を残しながら、漫画の見せ方を伸ばす
募集当初の本人取材で、樹林さんは完成形よりも、荒削りでも個性を見せてほしいと話していました。
弱点を削るだけの仕事にするのではなく、良いところを伸ばして、一緒に作品を作りたいという考えです。
選考後の助言は、その個性を漫画の中でどう生かすかへ進みます。
樹林さんは、今回のミステリーでは大人の男女も楽しめる絵柄を求め、掲載先の『なかよし』の従来の絵柄へ寄せすぎなくてよいと伝えました。
そのうえで、絵の上手さと個性の両方を伸ばしてほしいと話しています。
個性を歓迎することと、技術を磨くことは、同じ助言の中にありました。
次のネーム審査では、樹林さんのプロットから冒頭の漫画を作ります。
ネームとは、コマを割り、台詞や簡単な絵を入れた下描きです。
樹林さんは、どの情報を残し、どこを強調するかという選択にも、描き手の個性が出ると説明しました。
特に冒頭では、誰が主人公か、読者に印象を与えることが大切だとしています。
そのための独自の工夫も認め、自分が思い描いたものと違う表現が出てくることを期待していました。
原作の文章を受け取った描き手も、読者に何を見せるかを考えるのです。
まとめ
このオーディションで樹林さんが期待したのは、自分の原作へ、描き手ならではの表情や雰囲気が加わることでした。
一枚に表れた長所を見つけた後、その人が何を残し、何を強調して漫画にするかまで見ようとしています。
作画担当も、物語の見せ方を選ぶ人として、一緒に作品を作っていくのです。

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