『封神演義』の原作は?藤崎竜の漫画と安能務訳の関係

藤崎竜 封神演義 第1巻の電子版書影 漫画家・作者
『封神演義』第1巻電子版書影/藤崎竜、集英社。

藤崎竜さんの『封神演義』は、中国の古典小説『封神演義』をもとにした漫画です。
ただし、藤崎さんが漫画化の土台にしたのは、安能務さんが訳した講談社文庫版でした。
漫画の文庫版には「『安能務訳「封神演義」』講談社文庫刊より」という原作のクレジットがあります。
古典から安能務訳へ、安能務訳から藤崎さんの漫画へ。
この順番で考えると、「原作と違う」という話にも二つの段階があると分かります。

藤崎竜 封神演義 第1巻の電子版書影
『封神演義』第1巻電子版書影/藤崎竜、集英社。 出典

物語の出発点は、殷と周の争いを描く古典小説

中国の『封神演義』は、殷から周へ王朝が交代する時代を舞台にした古典小説です。
太公望、紂王、妲己といった人物が登場し、王朝の争いに仙人や妖怪、宝貝を使う戦いが重なります。
この舞台と登場人物が、藤崎版の物語にもつながっています。

その古典を現代の読者に向けて読みやすく作り直したのが、安能さんの日本語版でした。
安能務訳を経て漫画になっているため、漫画にある設定の由来を調べるときも、古典と安能版を分けて見る必要があります。

安能務訳は、人物や展開にも手を入れている

安能務訳『封神演義』は、講談社文庫の上・中・下巻で刊行されています。
上巻は1988年、下巻は1989年の発売です。
藤崎さんの漫画連載が始まった1996年より前に、日本語で読める形になっていました。

安能務訳の封神演義上巻の書影
『封神演義(上)』書影/安能務訳、講談社文庫。 出典

安能さんは1997年の『鳩よ!』のインタビューで、原典にある繰り返しや時間・空間の矛盾を整理するために作り替えが必要だったと説明しています。
その際には、テーマ、展開、人物の設定から考え直したとも語っています。
安能務訳は、文章を日本語に置き換えることにとどまらず、物語を再構成した本でもあるのです。

申公豹の扱いにも、その違いが表れています。
古典では太公望を妨害する悪役ですが、安能版では最強の宝器・雷公鞭を持ち、封神に関わる陰謀へ対抗する人物として描き直されています。
安能さんは、主人公側を邪魔する人物の力や役割まで変えました。
漫画と古典を比べるなら、その間にある安能版の変更も確かめる必要があります。

藤崎さんは「中国古典をジャンプ漫画にする」方針で描いた

藤崎さんは田中芳樹さんとの対談で、原作のある作品を漫画にするとき、最初にテーマを決めると話しています。
『封神演義』の場合は、中国の古典をジャンプ漫画にすることでした。
本人は『屍鬼』では外場村をリアルに作り出すこと、『銀河英雄伝説』では大河ドラマにすることを挙げています。
同じ漫画化でも、作品ごとに目指す形を変えているのです。

この方針のもとで、藤崎版の『封神演義』が作られました。
『封神演義展』の公式紹介も、古典を大胆に再構成した作品として、独自のキャラクターデザイン、コミカルな掛け合い、伏線を張ったシリアスなドラマを挙げています。
安能務訳を出発点にしながら、藤崎さんは少年漫画としての人物の見せ方や展開を作っていきました。

安能務訳の封神演義下巻の書影
『封神演義(下)』書影/安能務訳、講談社文庫。 出典

藤崎さんは『封神演義』以外にも、SFの短編や小野不由美さん、田中芳樹さんの小説を原作とする漫画を描いています。
ほかの作品から漫画化の幅を知りたい方は、藤崎竜の作品と読む順番も参考になります。

まとめ

漫画をきっかけに原作を読みたくなったなら、安能務訳は、藤崎版の出発点へ戻る入口になります。
ただ、安能版にも申公豹の役割を変えるような創作があるため、漫画の答え合わせだけで読むにはもったいない本です。
中国古典を安能さんがどう作り替え、その物語から藤崎さんがどんな少年漫画を描いたのか。
そう考えると、原作を読む楽しみも、同じ場面を探すことから、別の描き手の『封神演義』に出会うことへ広がります。

コメント

アクセス解析について
タイトルとURLをコピーしました