『天』銀次はなぜ赤木に「恐かねえか」と聞いたのか――自分の死を前にした対話

これから死ぬことは恐ろしくないかと赤木に尋ねる銀次 天 天和通りの快男児
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第16巻。

赤木しげるの通夜で、浅井銀次は赤木の決意を引き止めようとはしない。
死ぬと決めて死ねる赤木を、銀次は羨ましいとさえいう。
ところが、その銀次が赤木に、これから死ぬことは恐ろしくないのかと問いかける。
この質問には、銀次自身の不安が重なっている。
銀次も癌を患い、自分の死が近づいていることを知っていた。

これから死ぬことは恐ろしくないかと赤木に尋ねる銀次
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第16巻。

赤木への質問が、銀次自身の恐れにつながる

銀次は、赤木が死を前にしてどんな気持ちでいるのかを聞く。
その後、銀次は自分が死ぬことを恐れていると明かす。
これで終わりだと思うと怖いという銀次に、赤木は答えていく。
この会話は、死を決めた赤木の気持ちを確認するだけでは終わらない。
赤木の通夜を訪れた銀次が、今度は赤木から言葉を受け取る側になっている。

銀次の質問に対し、赤木はまず、死んで全てが消える場合と、魂や意識のようなものが残る場合を考える。
前者なら、心配をする自分も残らない。
後者なら、体の痛みや煩わしさから離れたものだろうと赤木は考える。
どちらであっても心配しなくていいというのが、赤木の返事だ。

どちらに転んでも心配するにはあたらないと銀次に答える赤木
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第16巻。

赤木の説明は、仮定を重ねた本人の死の捉え方である。
銀次が見えない先を恐れるのに対し、赤木はその先を別の見方で捉えようとする。
銀次の不安に、赤木は自分の考えを伝えている。

赤木は、先に逝く者として銀次に声をかける

赤木は銀次に、自分が先に死んでみせると告げる。
そして、自分が見てきた限りでは、人は温かく死んでいけると語る。
今夜人生を終えようとしている赤木が、死を怖がる銀次へ向けて伝える言葉である。

自分が先に死んでみせると銀次に告げる赤木
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第16巻。

銀次は、赤木に恐怖を感じないのかと尋ね、自分の怖さも隠さず話した。
赤木はその銀次に、自分なりの考えを伝えたうえで、銀次にも受け入れられると声をかける。
同じように自分の死と向き合っている赤木が、銀次本人に語りかけたところに、この会話の重みがある。

自分が見てきた限りでは人は温かく死んでいけると銀次へ語る赤木
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第16巻。

金光や鷲尾が赤木の死を前に自分の願いを伝えたのに対し、銀次は自分も抱えている恐れを赤木に話す。
赤木との別れに来た銀次が、その赤木に支えられる。
通夜が生きているうちに言葉を交わす場だったことは、赤木が生前葬を開いた理由にもつながっている。
銀次との対話では、その時間が、銀次自身の不安を赤木に話せる時間になったのだ。

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