『天』斬られた天は、なぜ沢田を「優しい人」と言ったのか

沢田が優しい人だとひろゆきに話す天 天 天和通りの快男児
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第2巻・第11話。

沢田は天を刀で斬った。
その沢田を、天は「優しい人」だと言う。
ひろゆきは、その理由を救急車の中で天から聞く。

ひろゆきが先に知ったのは、沢田が天を斬ったという事実だった。
天がひろゆきに話すのは、沢田が斬る前に何を見逃し、誰のために損な役を引き受けていたかだった。
天自身の傷を知るには、この二人の間で何が起きていたかまで見る必要がある。

沢田は、仕掛けに気づいていた

沢田がひろゆきのもとへ来たとき、ひろゆきはまず天が斬られたことを知る。
沢田は、天が自分を侮辱したため、いずれこうするしかなかったと話す。
ひろゆきが天を心配し、沢田への怒りを募らせるのも、この時点で聞いている説明を考えれば自然だ。

天を斬ったことをひろゆきに告げる沢田
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第2巻・第11話。

ところが天は、救急車の中でひろゆきの見方を訂正する。
沢田は天の仕掛けに気づきながら、天に勝ちを譲っていたという。
勝負の席で仕掛けを指摘すれば、天や中西のためにはならない。
沢田は、それを見逃すことで二人の側に立った。

その選択は、沢田にとって気軽な親切ではない。
沢田はヤクザとしての立場を持つ人間であり、天たちを助けるために不正を見逃したことは、大きな失策にもつながる。
ひろゆきは斬られた天の負担を見ていたが、天はその前に沢田が背負った負担を見ていたのだ。

沢田が仕掛けを見逃し、泥をかぶったことを説明する天
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第2巻・第11話。

沢田は、斬るときにも加減していた

天によれば、沢田は天や中西のために泥をかぶっただけでなく、ひろゆきの面倒も見てくれた。
ひろゆきが代打ちの世界へ入るうえで、沢田との出会いは幸運だったとも天は話す。
天の言う「優しい人」は、斬られても許してしまうための曖昧な褒め言葉ではない。
沢田が実際に引き受けた仕事と負担を指している。

沢田は、けじめとして天を斬る際にも加減していた。
天は、沢田が自分で手を下したことについて、若い者に任せると加減を知らず危ないからだと説明する。
沢田が斬った傷についても、見た目ほど深くないと天は話す。
勝負を見逃した沢田は、その後のけじめでも、天の受ける傷を抑えようとしていた。

沢田が自分で刀を振るった理由を話す天
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第2巻・第11話。

ただ、天の負傷がすべて予定どおりだったわけではない。
頭の傷は、斬られた際に倒れて負ったものだった。
天自身も、命を脅かした頭の傷を不可抗力として説明する。
沢田が加減したことと、天が命を落とす危険に陥ったことは、両方ともこの場面にある。

頭の傷を不可抗力だったと説明する天
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第2巻・第11話。

そのうえで、天はひろゆきに、沢田を恨む気持ちはないと伝える。
自分が勝ちを得た陰で沢田に負担を負わせた以上、天は斬られた自分だけを被害者として扱わない。
天は自分の傷について話すときにも、沢田が受けた損をひろゆきに伝えている。

ひろゆきが知った、損な役を引き受ける優しさ

天は、自分の過去を立派なものとして語らない。
長い間、人を欺き、陥れることで生きてきたと話す。
ここで天が沢田への礼を言いたいと考えているのは、傷を負わせた相手だからではない。
沢田が自分たちのためにしてくれたことを、天が分かっているからだ。

沢田を恨まず、礼を言いたいとひろゆきに伝える天
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第2巻・第11話。

ひろゆきは、天が勝ったときにも、沢田が天を斬ったと聞いたときにも、この二人の間にある負担を理解していなかった。
救急車内の会話を経て、ひろゆきはようやく、二人がそれぞれ損な役を引き受けていたことを知る。
その驚きが、ひろゆきの言う「自分を傷つけることでしか人に優しくできない」という言葉につながる。

天の説明を聞き、これまでの疑問を振り返るひろゆき
『天 天和通りの快男児』福本伸行、第2巻・第11話。

ひろゆきが心を動かされたのは、勝った天の強さよりも、人を助けるために自分の損を引き受ける二人の姿だった。
天と対局していた沢田まで、天と同じように誰かを助けようとしていた。
天への同情だけでは、この場面でひろゆきが知った優しさのすべてを説明できない。
天を斬った沢田も、天やひろゆきを助けた人間だったのだ。

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