『銀と金』森田はなぜ田中の裏切りを見破れたのか――二つの「ミス」がつながった瞬間

田中の雇い主を指摘し、二度の失敗を根拠に挙げる森田 銀と金
『銀と金』福本伸行

看護師の田中沙織は、神威秀峰の救出を手伝うはずの相棒だった。
ところが、ホテルで逃げる森田たちを危険にさらすのは、田中自身の行動である。
エレベーターの階を押し間違え、暗闇に隠れたあとにはポケベルを鳴らしてしまう。

森田は二つの失敗を結び付け、田中の本当の雇い主に気付く。
その判断によって、最初の救出も違って見えてくる。

銃を向けられ、動くなと命じられる森田
『銀と金』福本伸行

二度の失敗は、どちらも三兄弟を助けていた

会長室から逃げた森田たちは、エレベーターで地上へ降りようとする。
しかし田中が押したのは、1階ではなく23階だった。
エレベーターは途中で止まり、電源を切られ、森田たちはホテルから出られなくなる。

次に起きるのが、ポケベルの音である。
三兄弟が暗いレストランのフロアを探しているところへ音が響き、森田たちの居場所が知られてしまう。
秀峰は三兄弟に捕まり、森田と田中だけが逃げる。
田中は森田に、電源を切り忘れたと説明する。

三兄弟に捕らえられ、拳銃を突き付けられる神威秀峰
『銀と金』福本伸行

押し間違いは逃走を遅らせ、ポケベルは隠れ場所を知らせた。
どちらも、追う三兄弟に都合のよい失敗である。
田中は、病院から秀峰を逃がす計画を立てた相棒でもある。
その田中の失敗が、今度は秀峰を捕まえる側を助けている。
森田は、ありえにくいことが二度続いたと指摘し、田中を問い詰める。

裏切りに気付くと、最初の救出も違って見える

森田は田中に、本当の雇い主は秀峰の息子たちだと告げる。
そして、23階を押したこととポケベルを根拠に挙げる。
田中が否定しても、森田は相棒としての言葉を信じ続けない。

田中の雇い主を指摘し、二度の失敗を根拠に挙げる森田
『銀と金』福本伸行

ここで森田は、病院からの脱出も「できすぎていた」と振り返る。
田中の計画で秀峰を連れ出せたことは、それまでは田中が味方であるように見える出来事だった。
田中の雇い主が息子たちなら、病院脱出も息子たちのための仕事だった可能性が出てくる。
森田は、脱出そのものも仕組まれていたと考え、話のつじつまが合ったと判断する。

森田は、病院を出た時点で田中の裏切りを見破っていたわけではない。
逃走中の二つの失敗を見てから、うまくいったはずの救出まで疑い直している。
田中が頼りない相棒に見えた場面と、頼れる相棒に見えた場面が、同じ裏切りの説明でつながる。
そこに、森田が田中の正体を突き止めた判断の筋道がある。

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