『銀と金』安田は臆病なだけか?ポーカーで森田を支えた冷静さ

森田のポーカー勝負で、いくらでも金を積むと告げる安田 銀と金
『銀と金』福本伸行・第38話。

安田巌は、大勝負の危険を気にし、森田鉄雄のやり方にも口を出す。
森田のように、破滅を覚悟して勝負へ飛び込む人物ではない。
その安田が、西条進也とのポーカーでは、顔色を変えずに金を積み続ける。
「いくらでも」と言う安田の態度は、森田側の資金に限界があることを隠し、西条を追い込む力になっていた。

森田のポーカー勝負で、いくらでも金を積むと告げる安田
『銀と金』福本伸行・第38話。

慎重な安田は、森田の危険な勝負で何を支えていたのか。
西条に見せた態度と、森田に向けた忠告をたどると、安田が担った仕事が見えてくる。

安田が隠したのは、金の限界だった

西条とのポーカーは、手札の強さだけで決まらない。
賭け金に上限がなく、相手の積んだ金についていけなければ、強い役を持っていても負ける。
森田は、美緒たちが西条に追い込まれた最初の勝負で、このルールを使い、西条の手持ちを上回る現金を積んでいる。

西条たちの手持ちを上回る金を積み、美緒たちの勝負に入る森田
『銀と金』福本伸行・第34話。

次の大勝負では、森田側に安田と船田が加わる。
森田の二億円に、借り集めた八億円を足した十億円が、森田側の資金だ。
西条側は二十億円まで用意できるため、単に最後まで金を積み合えば、森田側のほうが先に尽きる。

絵画の勝負で得た二億円を、自分の金として喜ぶ森田
『銀と金』福本伸行・絵画編。

そこで重要になるのが、残りの金を西条に読ませないことだった。
西条に金を出す松沼は、船田を知っており、その資金力を警戒する。
安田も、金が積み上がってなお動じず、二千万円ずつ積んでいく。
西条は森田側の限度を見誤り、自分の二十億円でも足りないのではないかと恐れ始める。

船田に関する松沼の言葉が、西条に資金への警戒を生む。
安田は落ち着いて積み続けることで、その警戒を強めていた。

西条には、自分が失う金が見えてくる

安田が一定の額を積む一方で、西条の出す額は、一千万円や三千万円へと揺れる。
西条は、森田側にどこまで金があるのか分からないまま、さらに大金を差し出すことになる。
いつものように金の力で相手を潰そうとした西条が、今度は自分の破滅を意識させられている。

この時点でも、森田側の資金が西条側を上回ったわけではない。
西条の仲間は、森田側も限界に近いのではないかと考えている。
安田と森田の余裕が、誰の目にも完全に通用していたわけではないのだ。

それでも西条は、さらに金を積んで確かめることをためらう。
西条の仲間が口を出す場合と、西条自身が次の大金を賭ける場合では、負担が違う。
安田の淡々とした振る舞いは、自分が損をするかもしれない西条に、森田側の金がまだ残っているように見せていた。

勝ったあとにも、安田の警戒は消えない

勝負のあと、安田は、西条がフルハウスを作っていたら森田は負けていたと指摘する。
フラッシュより強い役が西条の手にあれば、森田の仕掛けが通じても、手札の勝負では森田が負ける。
実際に森田が勝ったあとでも、安田は、勝ちが確実だったとは扱わない。

続く蔵前との勝負を前に、森田は、銀二からギャンブルのイメージを尋ねられる。
森田は、幅の分からない谷へ身を投げて跳ぼうとする行為として、ギャンブルを語る。
安田は、その考えではいずれ破滅すると警告する。
安田がポーカーで森田を支えたことは、森田の危険な勝負観まで受け入れたことを意味しない。

跳ぼうとする行為そのものをギャンブルと語る森田
『銀と金』福本伸行・第43話。

西条に向けては、資金の底を見せない。
森田に向けては、勝負に残っていた危険を指摘する。
安田の二つの態度は、相手と役割が違っている。

安田は、森田と同じ勝負師にはならない

森田は、見せかけの資金力で西条を追い込み、手札の仕掛けでも西条を出し抜く。
安田は、その勝負のうち、金を積む場面を引き受けた。
森田の発想が勝ちにつながるまでには、限度を知られないように積み続ける安田の仕事があった。

そして、安田は成功した勝負のあとにも、森田へ危険を指摘する。
西条を前にした安田の余裕は、危険な賭け方への無条件の賛同ではない。
森田と違う考えを持ったまま、森田の勝ちを支えていた。
安田のこの働きは、森田と同じ度胸があるかどうかだけでは測れない。

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