『レベルE』サゾドマ虫を作ったのはカナか――最終話に残された手がかり

冨樫義博 レベルE 第3巻の表紙 レベルE
『レベルE』冨樫義博・集英社。

王子とルナを救ったサゾドマ虫は、見た目に反して人を傷つけない。
その種明かしだけなら、最終話は王子の鮮やかな嘘で終わる。
ところが王子はその後、娘のカナが本当に母星にいるのかを確かめ始める。
虫とカナの間に何があるのだろう。
カナが虫を作ったという読みには根拠があるが、原作は製作者の名前までは告げていない。

王子が失敗した虫と、地球にいた虫

誘拐犯に王子が語るサゾドマ虫は、毒を持ち、人間を生きたまま食べる恐ろしい生物だ。
だが、道に立つ看板には正反対のことが書かれている。
虫は無害で、人が嫌がったり攻撃したりすると集まる。
優しく笑えば近寄らない。
王子はその性質を利用し、誘拐犯の恐怖と銃を彼ら自身に向けさせた。

サゾドマ虫の原作の姿
『レベルE』冨樫義博・第16話「Honeymoon…!」。
無害であり、笑顔には近寄らないと記されたサゾドマ虫の看板
『レベルE』冨樫義博・第16話「Honeymoon…!」。

王子にとって驚きなのは、虫が無害だったことではない。
看板を見た王子は、以前自分が作ろうとして失敗した人工生命体と、名前も習性も同じだとルナに話す。
王子は繁殖の仕組みを完成できず、その計画を断念していた。
ところが地球には、同じ特徴を持つ虫が群れで存在し、保護区を示す看板まで立っている。
王子の失敗した構想が、王子の知らないところで現実になっている。

カナは母星にいるはずだった

王子とルナは娘のカナを預けて新婚旅行に出た。
だから王子は、虫を見たあとで母星へ連絡し、カナが留守番しているか尋ねる。
返事を聞いた王子は、それが「本物のカナ」かを確かめ、さらにクライブが飼育室にいるか聞く。

クライブは、別の姿に擬態できる王子のペットだ。
王子がわざわざクライブの居場所まで確認するのは、報告された「留守番中のカナ」を、そのまま本人だと信じていないからだろう。
実際、最後にカナは地球で雪隆と美歩と一緒に歩いている。
二人との会話から、カナは以前にも一人で地球へ来ていたことが分かる。
母星からの報告と、地球にいるカナの姿は一致しない。

カナが父の知らないところで地球へ来ていたなら、父が完成できなかった虫が地球にいることとつながる。
虫の出現、王子の所在確認、最後のカナの姿を続けて読むと、カナが人工生命体を完成させたという見方が生まれる。
単に「頭のいい娘だから作れたはずだ」という想像ではない。
王子が自分の失敗作との一致に気づいた直後、カナを捜し始めることが、この読みを支えている。

虫の製作者まで、原作は明かしていない

ただし、王子はカナが虫を作ったと口にはしない。
カナが製作する場面も描かれない。
王子が確かめているのは、まずカナが母星を離れていないかということだ。
カナが地球に来ていた事実から、虫を作ったことまで自動的に確定するわけではない。

だから、この結末の読みどころは「犯人の名前を当てた」で終わらない。
虫がカナの作品だとすれば、最後に驚かされるのは王子である。
あれほど他人の予想を裏切ってきた王子が、今度は娘の動きを確かめるために電話をかける。
カナ説は、父と娘の立場が変わり始めたところまで読ませてくれる。

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