三好と前田を地下から救ったのはカイジだった。
それなのに二人は、村岡との「17歩」でカイジを勝たせるふりをして、村岡側に付く。
恩人を裏切ったと分かっていながら、二人はなぜそれを自分に許せたのか。
鍵になるのは、カイジが勝負に持ってきた300万円だ。
二人はその金を見て、村岡から聞かされた話を本当だと思い込む。
地下で二人が信じたのは、金を分けるカイジだった
地下チンチロで大槻に勝ったカイジは、勝ち金を仲間と平等に分けると言った。
仲間たちはその申し出を聞き、勝ち金を託してカイジを地上へ送り出す。
カイジはパチンコ台「沼」に挑む。
勝利したカイジは地下の仲間の借金を返し、三好と前田も地上へ出ることができた。

ここまでを二人が知らなかったわけではない。
後の裏切りがつらいのは、カイジが金を分け、仲間を救うところを二人自身が見ていたからだ。
二人の態度が変わるには、その記憶よりも強いと思える別の話が必要だった。
村岡の話に、300万円が「証拠」を与えた
村岡は三好と前田に、カイジが「沼」で得た金を隠し、仲間に分けなかったと吹き込む。
二人には、カイジが大金を失った経緯が見えていない。
二人は村岡に従ってカイジを勝負へ誘う。
この時点ですでに罠に加わっていたが、村岡の話が本当だと確信していたわけではない。

転機は、カイジが勝負の元手として300万円を持ってきたことだ。
カイジは金を持っていないはずなのに、なぜ用意できたのか。
村岡の説明を先に聞いた二人には、隠していた金を出したように見える。
だが、その300万円は「沼」の勝ち金ではない。
坂崎から渡された金で、カイジは後で返すと約束している。
二人が実際に見たのは、カイジが300万円を持参したという事実だけだ。
その出所を知らないまま、二人は村岡の話に合う答えを選んだ。
カイジも金の出所を二人にはっきり話さなかったが、その説明不足が「隠し金」の証明になるわけではない。
「先に騙された」と思えば、恩まで帳消しにできる
三好は、パチンコの分配金を受け取るのは当然だと考える。
二人はカイジを地下から出してもらった一方で、今は自分たちが金を奪われた被害者だと思っている。
だから三好は、カイジを陥れても「これでチャラ」だと自分に言い聞かせる。

この言葉が示すのは、二人がカイジの恩を忘れたというより、恩と裏切りを勝手に差し引いたことだ。
「先にカイジが裏切った」と考えれば、村岡に加担する自分たちの行為を、仕返しに見せられる。
しかし、カイジに助けられたことは消えない。
元手の出所を誤認していたことと、カイジをだまして勝負に送り込んだことも、別の話だ。

大きな取り分より、村岡の話を選んだ
村岡は、三好と前田の借金を帳消しにし、報酬を渡すと持ちかけた。
一方、カイジが勝てば三人で金を分けるという道もあった。
だが、二人は分け前を約束するカイジを、もう信じていなかった。
地下で公平に金を分けたカイジより、二人を借金漬けにした村岡の説明を信じた。
そこに、二人の判断の恐ろしさがある。
勝負が終わると、三好と前田はカイジに仲直りを持ちかける。

カイジは二人を殴り、その申し出を拒む。

二人の中で勘定を「チャラ」にしても、カイジが受けた裏切りは消えない。
300万円は隠し財産の証拠ではなかった。
二人が恩人を「先に自分たちを騙した男」へと見直し、裏切りを正当化できると思った、その分かれ目だった。


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