和月伸宏さんは、まず人物の性格や信念を考え、その人物を物語に置いてみます。
台詞を書くときには、言わせたい内容だけでなく、「この人物なら、どんな場面で口を開くか」も考えるそうです。
言葉を決めるだけでなく、人物が自然に話せる場面まで作ります。
外見より先に、人物の内側を決める
和月さんは集英社の若手作家との対談で、人物作りの出発点として「こういう人物を描きたい」という思いを挙げました。
性格、使命、信念といった内面の核が先にあり、最初から外見を細かく決めるわけではないと話しています。
その人物をネームに入れ、物語の中で生かせるか試します。
合わなければ採用しない選択もありますが、描きたい気持ちが強く、本人の感覚では多くが原稿になるそうです。
人物を思いついた時点で完成とせず、実際の話の中で動けるか確かめる工程があります。
「作者の分身」は、自画像を一人描くことではない
同じ対談で和月さんは、漫画の人物を作者の分身と呼んでいます。
志々雄真実には、自分が思い描く悪漢の姿を込めたと説明しました。
武田観柳については、金に汚い人物であっても、言っていることに自分が賛同する部分があると話しています。
和月さんは、自分の考えをそのまま入れるだけでなく、ひねったり、嫌いな人物への気持ちから作ったりもすると言います。
一人の作者から志々雄と観柳のように異なる人物が生まれるのは、作者の中の一面をそれぞれ別の形にしているからです。
『るろうに剣心』の敵役の信念については、別の記事で詳しく扱っています。

台詞より先に、その人物が話す理由を作る
人物の考えが決まっても、台詞が自然に出てくるわけではありません。
和月さんは、台詞には頭を使うと話しています。
どの言葉で伝えるかと同じくらい、その人物がどうすればその言葉を口にするかを考えるそうです。
例えば、普段は無口な人物が突然長く自分の思いを語れば、それまでの人物像と合わなくなります。
和月さんが挙げた方法は、台詞以外で伝えるか、無口な人物でも話すような状況を作ることです。
『武装錬金』を描いていた頃に、とくに意識するようになったと振り返っています。

人物が変わらなければ、話の形が変わっても届く
和月さんは2016年の本人インタビューで、集英社で学んだこととして、漫画では人物が重要だと語りました。
映画や舞台への翻案では筋立てが変わることもあります。
その際に人物のあり方まで変えてしまうと、愛着を持って読んできた人には別人に見える、と和月さんは考えています。
この考えは、台詞を作るときの話ともつながります。
和月さんは、印象に残る言葉を人物に言わせる前に、その人物が何を信じ、何をすれば話すのかを考える。
言葉の強さは、誰がどんな状況で口にしたかと切り離せないのです。
まとめ
和月さんにとって人物作りは、外見や決め台詞を先にそろえることではありません。
描きたい内面を話の中で試し、その人物が言葉を発する場面まで考える仕事です。
読者が覚えている一言にも、その人がそう話すまでの物語が必要だというのが、和月さんの制作方法から見える考え方です。

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