和月伸宏は『るろ剣』の必殺技をどう作る? 派手さと理屈の境界

博物館に展示された日本刀と鞘。るろうに剣心の逆刃刀ではない 和月伸宏
博物館に展示された日本刀。写真:raybdbomb/編集:Auge=mit。Wikimedia Commons、CC BY 2.0。漫画深層側での画像変更なし。

和月伸宏さんは『るろうに剣心』の必殺技を考えるとき、実在の剣術をそのまま再現するより、漫画の画面で見て驚ける動きを選びました。
その一方で、気を飛ばして攻撃するような超能力にはせず、人物の身体から生まれる技として説明する方針も持っていました。
本人が後に「やり過ぎた」と振り返る場面までたどると、技をどこまで派手にできるか、その境界が見えてきます。

サムネイルは博物館に展示された日本刀で、『るろ剣』の逆刃刀ではありません。
写真:raybdbomb/編集:Auge=mit/CC BY 2.0(漫画深層側での変更なし)。

剣術を調べても、漫画の一撃には足りなかった

和月さんは『るろ剣』の連載中、昔の剣術を調べたそうです。
技の名前は見つかっても、実戦での強さと、漫画の画面にしたときの迫力は別でした。
2016年の本人への取材では、調べた剣術の動きは漫画として見ると地味に感じた、と振り返っています。

剣術の演武で二人が向かい合う様子
現代の剣術演武(2019年、スイス)。
写真:Stéphane Gallay/CC BY 2.0(画像の変更なし)。

そこで参考になったのが、当時遊んでいた格闘ゲームの技です。
和月さんは『サムライスピリッツ』の覇王丸が放つ弧月斬を例に、現実にはあり得なくても格好いい動きなら、漫画の技の発想に取り入れられると話しています。
志々雄真実の紅蓮腕にも、ゲームの影響を認めました。

ただ、和月さんが格闘ゲームから学んだのは、技を派手にすることだけではありません。
和月さんは、戦い方だけでも人物の個性が分かる格闘ゲームの表現に感心し、『るろ剣』でも人物ごとに得意な戦い方を持たせたいと考えたといいます。
最強級の特徴を一人にいくつも持たせた例として、本人が挙げたのは比古清十郎くらいでした。
技の見た目は、戦う人物の見せ方にも関わっていました。

超能力を出さないという境界

派手さを取り入れながらも、和月さんは技に一つの線を引いていました。
同じ取材で、『るろ剣』には超能力を出さないと決めていた、と説明しています。
作中に「気」が出てきても、それは気合いの範囲であり、気を飛ばして敵を攻撃する形にはしない。
身体能力の延長として見せるのが基本でした。

和月さんは、技については多少無理があっても理屈をつけるとも話しています。
これは、漫画の技が現実に再現できるという意味ではありません。
現実には無理がある動きでも、作中で筋を通そうとする方針です。

斎藤の「対空」は、後から直したくなった言葉

剣心と斎藤一の戦いには、斎藤の牙突を「対空」と呼ぶ場面があります。
「対空」は、空中から来る相手への攻撃を指す格闘ゲームの用語です。

取材でこの言葉を指摘された和月さんは、いま思えばよくなかったと認め、当時の文章を直せるなら直したいと話しました。
このやり取りで取り上げられたのは、牙突の動きではなく「対空」という呼び方です。
技の見た目だけでなく、人物にどんな言葉で技を語らせたかも、本人が後から振り返る対象になりました。

『るろうに剣心』で斎藤一の牙突を『対空』と呼ぶページ
『るろうに剣心』第7巻106ページ。斎藤一の牙突を「対空」と呼ぶ場面(和月伸宏/集英社)。

二段ジャンプは、本人も「やり過ぎた」と振り返る

さらに思い切った例が、物語の終盤で雪代縁が見せる空中での二段ジャンプです。
和月さんは、この動きは意図的な冒険だったと説明しています。
『魁!!男塾』に登場する、もっともらしい説明で超人的な技を見せる仕掛けを試したかったそうです。
作中では、跳躍の頂点で一瞬止まることを持ち出し、二度目の跳躍を説明しようとする台詞が入っています。

しかし、本人の後年の評価は厳しいものでした。
結果としてやり過ぎで、もはや理屈をつけられない技になったと振り返っています。
本人が掲げた「身体能力の延長」という方針と照らすと、この技は説明が追いつかなかった例です。

『るろうに剣心』で雪代縁の二度目の跳躍を説明するページ
『るろうに剣心』第27巻138ページ。雪代縁の二度目の跳躍について説明する場面(和月伸宏/集英社)。

まとめ

和月さんにとって、技の格好よさは現実の剣術を再現することだけでは決まりませんでした。
格闘ゲームから学んだ派手な動きを取り入れながら、戦い方で人物を見せ、身体の動きとして作中で説明しようとしたのです。
「対空」という呼び方を直したいと語り、二段ジャンプを「やり過ぎた」と評したことには、出来上がった技も後から問い直す姿勢が表れています。

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