森山大輔とヨコオタロウはどう漫画を作った?『君死ニタマフ事ナカレ』の共同制作

刀を構える人物を赤と白で描いた君死ニタマフ事ナカレ第1巻の表紙 森山大輔
『君死ニタマフ事ナカレ』/原作:ヨコオタロウ、作画:森山大輔、スクウェア・エニックス。

『君死ニタマフ事ナカレ』では、ヨコオタロウさんが原作を、森山大輔さんが作画を担当しています。
ヨコオさんはコマ枠や吹き出しを置いたネームを渡し、森山さんは人物や場面を絵にしました。
その絵を見たヨコオさんが、人物のさらに先の展開を変えることもありました。
二人の共同制作には、原作を渡す工夫と、描かれた人物から物語へ戻る反応があります。

刀を構える人物を赤と白で描いた君死ニタマフ事ナカレ第1巻の表紙
『君死ニタマフ事ナカレ』第1巻/原作:ヨコオタロウ、作画:森山大輔、スクウェア・エニックス。 出典

森山さんは、それ以前に『クロノクルセイド』『ワールドエンブリオ』という自作の長編を描いています。
ヨコオさんは『ドラッグ オン ドラグーン』や『ニーア』を手がけたゲーム制作者です。
違う仕事の経験を持つ二人が、どのように漫画を作ったのか。
連載中の対談と、完結後にヨコオさんが書いた回顧から見ていきましょう。

最初から戦場の漫画だったわけではない

ヨコオさんの完結後の回顧によると、企画の始まりは2011年に編集者から持ちかけられた仕事でした。
森山さんは、編集者が挙げた作画候補の中にいた漫画家です。
ヨコオさんが森山さんを希望すると、実際に二人の組み合わせが決まりました。

森山さんの連載の都合もあり、準備には長い時間がかかります。
その間の打ち合わせでは、萌え系の企画から、学生たちが国を代表してスポーツで争い、ルールの穴を突いた殺し合いへ進む案に変わっていきました。
第1話の仮ネームができた後にも編集長の変更指示があり、連載される形へと改められます。
2014年に発表された作品は、超能力を持つ少年少女が戦場へ送られる漫画でした。

軍事利用される超能力と海外への派遣について話す君死ニタマフ事ナカレの生徒たち
『君死ニタマフ事ナカレ』/原作:ヨコオタロウ、作画:森山大輔、スクウェア・エニックス。 出典

原作と作画の二人が決まることと、作品の形が決まることは、別々の過程だったのです。
公式の担当表記には、制服デザイン原案の倉花千夏さん、衣装・武器デザイン協力の三輪士郎さんも並びます。
人物の姿や装備にも、二人以外の作り手が関わっています。

文章が多すぎたため、コマ枠を使う原作になった

ヨコオさんは、2015年の太田垣康男さんとの対談で、森山さんへ渡す原作の形式を説明しています。
最初は普通のシナリオを渡していましたが、1話に収めるには文字が多すぎました。
そこで、コマ枠の中に吹き出しや効果音を置き、絵の内容を文字で説明するネームへ変えたのです。

漫画では、台詞を増やすと、その言葉を入れる場所も必要になります。
枠と吹き出しを使えば、言葉をどのコマへ置くかまで、原作の段階で考えられます。
ヨコオさんは、生徒会長ウスキの死を三つのコマに分ける提案や、文字を黒く重ねる演出にも触れています。
物語や台詞に加え、ページの中でどう見せるかにも提案していたのです。

マシロが戦う姿の上に同じ言葉が重なり、黒くコマを覆っていく見開き
『君死ニタマフ事ナカレ』/原作:ヨコオタロウ、作画:森山大輔、スクウェア・エニックス。 出典

マシロの場面には、同じ言葉が重なり、コマを覆うほど黒くなる見開きがあります。
台詞を一つ読んで次へ進むときと違い、文字の重なりそのものが目に入ります。
ヨコオさんが語った文字の演出を、漫画のページでも見ることができます。

ヨコオさんは、漫画なら読みたい場所で立ち止まれることも面白さに挙げています。
ゲームでは難しかった人物の顔のアップも、森山さんの画力があることで使えると話しました。
コマの言葉を調整する一方で、絵をじっくり見せる方法にも漫画ならではの可能性を感じていたのです。

森山大輔の絵が、人物のその先を変えた

原作を受け取る森山さんも、ヨコオさんへ反応を返していました。
ヨコオさんによると、森山さんは過激な展開に異議を示すことがありました。
主人公クロイを性格の悪い人物にしたヨコオさんは、森山さんが加えるクロイのよい絵を、原作の過激さへのたしなめとも受け取っていました。

少女との会話と食堂でのやり取りを描いた君死ニタマフ事ナカレのページ
『君死ニタマフ事ナカレ』/原作:ヨコオタロウ、作画:森山大輔、スクウェア・エニックス。 出典

そのやり取りが、物語の先に影響した例がミズカキです。
ヨコオさんは同じ対談の続きで、森山さんの描いたよい顔を見て、ミズカキを生き残らせることにしたと話しています。
ヨコオさんは、ミズカキがさらに面白く育つと思ったのです。

汗を流して顔をゆがめるミズカキの大きな顔と、仲間たちを描いた原作ページ
『君死ニタマフ事ナカレ』/原作:ヨコオタロウ、作画:森山大輔、スクウェア・エニックス。 出典

ヨコオさんはすでに数話分のネームを渡していたので、絵を見て直後の話を変えたわけではありません。
森山さんが描いた人物の魅力が、もっと先の展開を考える材料になったのです。
原作者が考えた人物を、完成した絵でもう一度見る。
共同制作の中では、そのような順序でも人物の行く先が決まっていました。

太田垣さんも、整った顔の人物に豊かな表情を付ける森山さんの力を評価しています。
森山さんの表情の描き分けは、『クロノクルセイド』の掛け合いでも見比べられます。

原作が決まっていても、毎月仕上げる難しさがあった

完結後の回顧では、ヨコオさんが終盤の執筆についても振り返っています。
ヨコオさんは、大まかな筋を最初に用意していた一方、毎月続く物語を仕上げることには苦しんだと振り返りました。

ヨコオさんが経験したゲームのシナリオ制作では、執筆が一か月空くこともありました。
漫画の連載では、物語を定期的に仕上げ続ける必要があります。
話の行き先が見えていることと、その月の原作を完成させることは、同じではなかったのです。

黒と赤を背景に人物の顔を描いた君死ニタマフ事ナカレ完結第10巻の表紙
『君死ニタマフ事ナカレ』第10巻/原作:ヨコオタロウ、作画:森山大輔、スクウェア・エニックス。 出典

作品は全10巻で完結し、ヨコオさんは、予定した部分に加えてさらに描くことができたと振り返っています。
最初の案を何度も変え、渡す原作の形式も工夫した仕事が、人物の結末まで続いたのです。

まとめ

対談で太田垣さんが大切にしていたのは、出来事をどう印象に残すかという演出でした。
『君死ニタマフ事ナカレ』の共同制作を知ると、コマの中の言葉にも、描かれた顔にも、物語の見せ方を考えるやり取りがあったことが分かります。
ヨコオさんのネームと森山さんの絵を、完成したページで一緒に味わう。
二人の仕事を調べた後には、そのような読み返し方も楽しめます。

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