『ちいさこべえ』で望月ミネタロウさんが描こうとしたのは、山本周五郎の小説『ちいさこべ』を読んで感じた、言葉に書かれていない気持ちや空気でした。
人物の動作、服の着方、毎日の家事を描き、読者にその人の心情を想像してもらう方法を選んでいます。
人物の性格を、服の着方で伝える
2016年の本人インタビューでは、りつを描く方法について具体的に話しています。
望月さんによると、小説には、りつがどのように生きてきたかが詳しく書かれています。
漫画では、その説明をすべて言葉で伝える必要はないと考えました。
望月さんが例に挙げたのは、りつがブラウスのボタンを上まで留めることです。
服をどう着るかでも、どんな人物なのかを伝えられる。
そうした細部を通して、自分が原作から読み取った人物を漫画にしていました。

第1話で茂次とりつを紹介する見開きでは、りつは後ろ向きで、茂次の顔もほとんど見えません。
2015年の完結記念対談で、望月さんは、動作や持ち物、装いから心情を想像してもらいたかったと説明しています。
顔の表情以外にも、その人を伝える細部を描いていたのです。
台詞がなくても、家事を追うと暮らしが見える
家事のページでは、洗濯機、掃除、魚を焼く様子、干された洗濯物が続きます。
台詞がない中で、手を動かし、暮らしを整える様子を描いています。

望月さんは、日常を丁寧に描くことで、人物の現実味や気持ちを表そうとしました。
おにぎりを握る場面について、望月さんは、誰のために作り、どんな気持ちでいるのかを読者に考えてもらいたかったと話しています。
料理の動作に、その場面の気持ちを想像するきっかけを持たせていました。

手の動きや、ページをめくる間も考える
望月さんは、人物の所作や仕草から気持ちを伝える方法を選んでいたと話しています。
会話の途中に握った手を描く一ページでは、その手に一つの大きなコマが使われています。
会話を読む途中で、手の形にも目が向く構成です。

その見せ方を考えるのは、楽しいだけの作業ではありませんでした。
2016年の取材で望月さんは、原作から感じたものを漫画にするため、テンポや、ページをめくったときに何を見せるか、ページの構成を考えたと振り返っています。
読者にその場面をどう感じてほしいかが、悩むところでもありました。
読む速さや場面の間を考える仕事は、後年のネームについての説明でも語っています。
まとめ
『ちいさこべえ』では、誰かの気持ちを知るために、表情だけでなく、その人の暮らしや仕草を見ることになります。
ボタンを留める、掃除をする、おにぎりを握る。
望月さんは、説明の台詞に頼らず人物を伝える方法として、そうした動作を描いていました。
人物の気持ちを読む面白さが、普段なら何気なく見る服や手の動きにもある作品です。


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