『読者ハ読ムナ(笑)』は、藤田和日郎さんが、新人に向けて漫画の作り方を語る創作指南書です。
架空の新人が藤田さんのアシスタントになり、連載を目指す設定で、物語やキャラクター、絵の考え方、編集者との打ち合わせを学んでいきます。
藤田さんに教わる新人になったつもりで、漫画の仕事場をのぞける本です。

著者は藤田和日郎さん、構成は飯田一史さん。
2016年に小学館から刊行されました。
『うしおととら』『からくりサーカス』を描き、多くのアシスタントと仕事をしてきた作者が、新人からよく聞く悩みに答える一冊です。
出版社の紹介と試し読みから、本の形式と扱う話題を見ていきます。
最初の話題は、好きな映画
第1章は、仕事場にやってきた新人へ、藤田さんが声をかける場面から始まります。
何を描きたいのかを聞くより前に、映画や音楽、漫画ではどんなものが好きなのかを尋ねます。
『ターミネーター』や『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を話題にしながら、二人の会話が進んでいきます。

藤田さんは、仕事場の「無口禁止」という決まりも説明します。
新人には連載を取ってほしいと思っていても、来たばかりの相手を、まだよく知っているわけではありません。
好きなものを話し、相手の考えを知るところから、創作の相談が始まります。
こうした文章の対話に、藤田さんの挿絵が添えられています。
新人が何を言い、藤田さんがどう返すかを追いながら、助言を読む形式です。
本に登場する新人は、助言を伝えるために置かれた架空の人物です。
物語、キャラクター、絵をどう考えるか
全体は五つの章で構成されています。
会話を扱う第1章に続き、ストーリーとキャラクターの関係、キャラクターを立てる方法、絵の目的、オリジナリティーへと話題が広がります。
作画だけではなく、自分の漫画を考え、人と相談し、仕事にしていくための本です。

たとえば第2章の表題は、ストーリーを先に固めてキャラクターを当てはめるのではなく、両方を行き来しながら作るという考えを掲げています。
第3章の目次には、主人公を応援したくなるか、人物同士をどう掛け合いさせるか、台詞をどう磨くかといった問いが並びます。
面白い設定を思いつくだけではなく、それを登場人物の行動や会話にしていく時の悩みを扱うのです。
絵を扱う第4章は、細かな技術よりも絵の目的を重視する表題になっています。
最後の第5章の目次には、自分らしさと、漫画家として仕事を続けることについての話題が並びます。
目次からも、新人がぶつかる問題を、描く技術と仕事の両方から扱う幅が分かります。
漫画家と編集者の意見を、一つに揃えていない
この本には、藤田さんの初代担当だった武者正昭さんも、編集者として登場します。
新人が漫画家に教わるだけでなく、原稿を読む担当編集者の考えにも触れられる作りです。

前書きで武者さんは、漫画家と編集者の意見や見方が異なるところも、そのまま残したと説明しています。
それは、両方を見せたいという藤田さんの意向によるものでした。
武者さんの発言も、小学館の編集者全員を代表する決まりではなく、本人の考えとして書かれています。
同じ漫画の相談でも、漫画家と編集者が、同じところを気にするとは限りません。
二人の見方を読むと、新人がどんなことを考えながら、相手と話し合っていくのかが見えてきます。
前書きでは、藤田さんが初期に描いた『神剣破壊』のネームへの指摘も、本に再現していると説明しています。
『うしおととら』が生まれるまでに、作者が何を描き、どんな言葉を受け取ったのか。
漫画を読む人も、完成したヒット作の前にあった試行錯誤へ触れられる作りなのです。
その対話を一冊にするまでの経緯は、藤田さんと武者さんが助言を本にまとめた過程でも紹介しています。
主な読者は、すでに漫画を描いている新人
本の前書きは、原稿用紙やペンをどこで買うかといった、最初の準備については省いていると説明しています。
設定上の新人も、新人賞に入選したところから始まります。
初めて一本を描く前の人よりも、すでに描いていて、次の作品や連載へ進みたい人に向けた本なのです。
企画者の武者さんも、2018年の取材で、デビュー目前やデビュー直後、連載を目指して悩んでいる人が当初の読者だったと話しています。
実際には、ベテランの漫画家や編集者からも反響があったそうです。
読むだけで漫画を楽しんでいる人にとっては、作家がどんな問いを持ちながら描き、担当と話しているのかを知る入口になります。
まとめ
『読者ハ読ムナ(笑)』で読めるのは、漫画づくりの助言と、それを人に伝える会話です。
作品を描く新人を前に、藤田さんが何を聞き、どんなことから話し始めるのか。
編集者は、同じ悩みにどう答えるのか。
仕事場で交わされる言葉を追えるところに、この本の面白さがあります。
漫画を描く人には、自分の悩みを相談する時の手がかりがあり、読む人には、完成した漫画の前にあるやり取りを知る楽しさがあります。
好きな作者の仕事場へ入り、漫画家と編集者の考えを一緒に聞ける一冊です。

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