赤木に生きてほしいと願うひろゆきは、説得の最初の言葉を出せない。
相手の命がかかっているから、失敗するかもしれない話を簡単に始められないのだ。
そのひろゆきに、赤木は「真面目であることは悪癖だ」と言う。
赤木が問題にしているのは、必ず正しくやらなければならないと考え、何も始められなくなっているひろゆきの姿である。
ひろゆきは、説得の正解を見つけるまで話せない
ひろゆきは、赤木を止めたいからこそ、説得に失敗したときの責任を重く考えている。
しかし、その責任を果たせる言葉が見つからず、赤木の前で黙り込んでしまう。
赤木は、ひろゆきの状態を、正着手が見えなければ一手目から動けない詰め将棋にたとえる。
赤木が勧めるのは、何でもいいから話し、そのやり取りの中で考えることだ。
ひろゆきは、相手の返答を聞きながら、自分も考え直していけばいい。
赤木の目には、ひろゆきは失敗しない答えが分かるまで話せないように映っている。
その答えを探して黙っている間は、二人のやり取りも始まらない。
赤木の「いい加減になれ」は、ひろゆきを動かす言葉
赤木は、牌を引く勝負でひろゆきが勝てば、生き残ると持ちかける。
負けた場合の条件は、ひろゆきの腕一本だ。
ひろゆきが悪い確率と重い条件を考え込むと、赤木は、負けたときにはそんな約束を反故にすればいいとまで言う。
赤木は、ひろゆきにもっとずるさや、いい加減さがあっていいと話している。
この提案では、ひろゆきは赤木を生かすために、自分の腕を賭けることになる。
赤木は、ひろゆきが負けた場合の条件をそのまま引き受けて考えることに、柔軟さのなさを見る。
もっと柔軟になれと促す赤木は、その生真面目さが、ひろゆきを九年間止めていたとも話す。
赤木の言葉を聞いたひろゆきは、自分の停滞を言い当てられたことに反発する。
最初は何も言えなかったひろゆきが、今度は赤木へ自分の気持ちを返している。
話が進んだことで、ひろゆきが麻雀を離れた悔しさや、今の暮らしで苦しんでいた理由も表れてくる。
赤木は後に、麻雀でも勝てないと先に決めるなとひろゆきに話す。
説得では失敗を恐れて話せず、麻雀では勝てないと思って踏み出せない。
赤木がひろゆきに問いかけているのは、どちらも動く前に止まってしまう、その考え方だ。

対話が進むと、赤木は、世間に合わせたまともな暮らしと本心の板挟みに、ひろゆきの苦しさを見つける。
最初の一言を出せないという問題が、ひろゆき自身がどう生きたいかを話すところまでつながっていく。

ひろゆきの真面目さは、赤木のことを大切に思う気持ちからも出ている。
だが、赤木を止めたいという気持ちがあっても、正しく説得できる保証を待っていたら、言葉を交わせない。
赤木がひろゆきに求めたのは、間違いを一つも犯さない人になることではなく、相手の返答を受けながら、自分も考え直していくことだった。
ひろゆきを動かそうとする赤木の問いかけが、ひろゆき自身の悩みを話すきっかけにもなっている。

コメント