『銀と金』政治工作編を解説――銀二の説得が成功したのに、なぜ法案は否決されたのか

話が早い伊沢を支持する銀二と、政治の決定に時間がかかると話す二人 銀と金
『銀と金』福本伸行・第59話の銀二と伊沢。

伊沢敦志から依頼された五人の議員の説得を、銀二は成功させる。
ところが裏工作の情報が漏れ、政治改正法案は否決されてしまう。

その失敗を仕組んでいたのは、仕事を頼んだ伊沢自身だった。
伊沢には、法案を一度否決させた後、成立へ持ち込む筋書きがある。
銀二が知らないところで、銀二の仕事もその演出に使われていたのだ。

銀二が引き受けたのは、五人を賛成へ動かす仕事

話が早い伊沢を支持する銀二と、政治の決定に時間がかかると話す二人
『銀と金』福本伸行・第59話の銀二と伊沢。

蔵前との勝負に勝った銀二は、政治家の借用書を得たことを伊沢に報告し、選挙資金の援助も申し出る。
銀二は伊沢に肩入れする理由を、話が早いからだと説明する。
伊沢も、政治は時間がかかり、時間をかけても決まらないことがあると応じる。
二人は、物事を早く動かしたいという点で気が合っていた。

その後、新党を作って連立政権に加わった伊沢は、政治改正法案に反対する五人の議員を説得してほしいと銀二に頼む。
相手は、伊沢と同じ連立政権に属する側の議員だ。
政権の内側にある反対を取り除く仕事だった。

五人には、次の選挙で参議院から衆議院へ移りたいという望みがある。
銀二は代筆屋を使い、伊沢の名で衆議院の議席を確保すると約束するニセ書状を作る。
五人が欲しいのは、自分の政治家としての将来だった。
銀二はその望みに応える約束を見せ、賛成へ動かすことに成功する。

しかし、裏工作の情報が漏れると、五人の属する党は法案への反対を強める。
法案は否決され、銀二たちはどこから情報が漏れたのか分からずにいた。

伊沢は、否決より前に法案を通す合意を作っていた

伊沢は銀二を手玉に取ったのかと尋ねる土門
『銀と金』福本伸行・伊沢の工作について話す銀二と土門。

後に銀二が土門へ説明するのは、伊沢が採決前から河野洋一と法案成立の密約を結んでいたことだ。
河野にも法案を通したいという意向があり、二人の利害は一致していた。

銀二が説明する伊沢の狙いは、二人だけで決めた合意を、苦労して実現したように見せることだった。
そこで伊沢は、法案を一度否決させる。
銀二たちの裏工作を漏らしたのも伊沢だった。

銀二は、伊沢から頼まれた仕事を終えている。
五人の説得が失敗したから法案が否決されたわけではない。
伊沢は、銀二たちには全体の計画を知らせず、自分の筋書きに必要な反対を起こしていた。

否決から一週間後、伊沢と河野はトップ会談で合意し、法案を通すことを決める。
最初の否決は、伊沢の計画が崩れた結果ではなく、伊沢が予定した展開だったのだ。

法案を通すまでの騒ぎが、伊沢の利益にもなる

帝日銀行頭取の土門猛
『銀と金』福本伸行・土門猛。

銀二が伊沢の計画を見抜くきっかけは、土門からの連絡だった。
裏工作の情報が漏れた後、土門は伊沢が海外から千億円もの金を調達したことを銀二に知らせる。
土門は伊沢に金の使い道を尋ねるが、伊沢はその場で明かさない。
伊沢は、法案は通すと話していた。

その金は株式投資に使われていた。
法案が否決されると株価は下がり、その後のトップ合意で株価は上がる。
伊沢は、政治を動かすことで生じる相場の変化を先に知り、利益を得たのだ。

伊沢が作っていたのは、法案を通すための演出だけではない。
否決と合意の間に生じる値動きも、資金を増やすために利用していた。
土門が伊沢の行為に怒り、銀二がその手腕に感心する違いは、伊沢が「悪」を演じる理由でも扱っている。

銀二は、伊沢の計画を後から見抜く

土門が銀二のホテルを訪れたとき、床には札束が広がっていた。
銀二も、今回の政治改正法案をめぐる動きで金を得ている。
銀二は、伊沢の仕掛けを理解し、その動きを自分の利益にもつなげていた。

情報が漏れた時点の銀二たちは、その出どころを分からずにいた。
伊沢に動かされた銀二も、後に仕掛けを見抜き、金を得る側へ回っている。

銀二は議員を動かす仕事を終えていたが、その仕事が伊沢の演出に使われることまでは知らなかった。
依頼をやり遂げた銀二まで自分の計画に組み込んだところに、伊沢の政治工作の怖さがある。

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