王子とルナを救ったサゾドマ虫は、見た目に反して人を傷つけない。
その種明かしだけなら、最終話は王子の鮮やかな嘘で終わる。
ところが王子はその後、娘のカナが本当に母星にいるのかを確かめ始める。
虫とカナの間に何があるのだろう。
カナが虫を作ったという読みには根拠があるが、原作は製作者の名前までは告げていない。
王子が失敗した虫と、地球にいた虫
誘拐犯に王子が語るサゾドマ虫は、毒を持ち、人間を生きたまま食べる恐ろしい生物だ。
だが、道に立つ看板には正反対のことが書かれている。
虫は無害で、人が嫌がったり攻撃したりすると集まる。
優しく笑えば近寄らない。
王子はその性質を利用し、誘拐犯の恐怖と銃を彼ら自身に向けさせた。


王子にとって驚きなのは、虫が無害だったことではない。
看板を見た王子は、以前自分が作ろうとして失敗した人工生命体と、名前も習性も同じだとルナに話す。
王子は繁殖の仕組みを完成できず、その計画を断念していた。
ところが地球には、同じ特徴を持つ虫が群れで存在し、保護区を示す看板まで立っている。
王子の失敗した構想が、王子の知らないところで現実になっている。
カナは母星にいるはずだった
王子とルナは娘のカナを預けて新婚旅行に出た。
だから王子は、虫を見たあとで母星へ連絡し、カナが留守番しているか尋ねる。
返事を聞いた王子は、それが「本物のカナ」かを確かめ、さらにクライブが飼育室にいるか聞く。
クライブは、別の姿に擬態できる王子のペットだ。
王子がわざわざクライブの居場所まで確認するのは、報告された「留守番中のカナ」を、そのまま本人だと信じていないからだろう。
実際、最後にカナは地球で雪隆と美歩と一緒に歩いている。
二人との会話から、カナは以前にも一人で地球へ来ていたことが分かる。
母星からの報告と、地球にいるカナの姿は一致しない。
カナが父の知らないところで地球へ来ていたなら、父が完成できなかった虫が地球にいることとつながる。
虫の出現、王子の所在確認、最後のカナの姿を続けて読むと、カナが人工生命体を完成させたという見方が生まれる。
単に「頭のいい娘だから作れたはずだ」という想像ではない。
王子が自分の失敗作との一致に気づいた直後、カナを捜し始めることが、この読みを支えている。
虫の製作者まで、原作は明かしていない
ただし、王子はカナが虫を作ったと口にはしない。
カナが製作する場面も描かれない。
王子が確かめているのは、まずカナが母星を離れていないかということだ。
カナが地球に来ていた事実から、虫を作ったことまで自動的に確定するわけではない。
だから、この結末の読みどころは「犯人の名前を当てた」で終わらない。
虫がカナの作品だとすれば、最後に驚かされるのは王子である。
あれほど他人の予想を裏切ってきた王子が、今度は娘の動きを確かめるために電話をかける。
カナ説は、父と娘の立場が変わり始めたところまで読ませてくれる。

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