霊光玉を受け継ぐ試練で、幽助は自分を「根性なし」と呼ぶ。
その幽助が、傷ついたプーには手を差し伸べ、幻海に手当てを頼む。
自分には厳しく、プーには優しい。
そのプーは、幽助の心を糧にして生きる分身である。
そう考えると、この救出には少し違った意味が見えてくる。
幽助はプーを助けることで、自分の中にある弱さや優しさにも手を差し伸べていたのではないか。
自分には向けにくい優しさを、分身には向けられる。
そんな関係から、この場面を読んでみたい。
プーの優しさは、誰の優しさなのか
霊光玉を受け継ぐ幽助は、指を動かすだけで全身が引き裂かれるような苦痛に襲われている。
最後に水を飲みたいと願った彼のもとへ、プーが水を運んでくる。
自分も傷ついた小さな体で、幽助を助けようとする。

ここで思い出したいのが、コエンマによる霊界獣の説明だ。
霊界獣は幽助の心を栄養にして生きる分身であり、幽助が精神的に弱くなると、その影響で死んでしまうことさえある。
プーの衰弱は、幽助の苦境と切り離せない。

ただ、プーは幽助とまったく同じ行動を取る存在ではない。
幽助がもう駄目かもしれないと諦めかけても、プーは水を運ぼうとする。
つまり、プーに表れているのは幽助の弱り方だけではない。
傷ついた相手を放っておけない優しさも、幽助の心の一部として見ることができる。
自分ではもう力が残っていないと思っている幽助のそばで、その優しさはまだ働いている。
「根性なし」と責める自分と、助けたい分身
プーの姿を見た幽助は、「どっちが分身かわかりゃしねーぜ」と漏らす。
続く言葉は、「こんな根性なしが本体じゃ」という自分への悪態だ。
分身に励まされる状況を、すぐに自分への肯定へつなげているわけではない。
このとき、幽助は自分とプーの弱り方を、違う態度で受け止めている。
動けなくなった自分のことは責める。
傷ついて倒れるプーのことは、助けようとする。
もちろん、プーは痛みをこらえて水を運んでくれた相手だ。
幽助が心を動かされた直接の理由には、その献身がある。
そして、助ける相手が自分の分身であることは、このやり取りを特別なものにしている。
自分に向ければ悪態になる弱さが、プーの姿を取ると、放っておけないものになるからだ。
人を助ける優しさなら、幽助は物語の最初から持っていた。
子どもをかばって命を落とした少年が、この洞窟で初めて他人を思いやったわけではない。
ここで変わるのは、助ける相手に自分の心が重なっていることだ。
他者に向けてきた優しさが、分身を通じて自分にも届く。
プーを助ける行動を「幽助自身を救うこと」と読めるのは、この関係があるからである。
分身の手当てを頼むことに、何が重なるのか
洞窟を出た幽助は、プーを幻海に差し出し、手当てを頼む。
「手当てしてやってくれ……こいつを…」という言葉の対象は、はっきりプーだ。
自分自身を助けているつもりだった、と幽助の内心を決める必要はない。

注目したいのは、自分を「根性なし」と責めていた幽助にも、分身を大切にする行動は取れたことだ。
自分に悪態をつきながらも、プーを抱き、助けを求めることはできる。
この場面で確かめられるのは、幽助が自分を好きになったという内心の変化よりも、自分の心とつながる分身を守った行動である。
プーは幽助に水を運び、幽助はプーを手当てしてもらおうとする。
この助け合いを分身という設定と重ねると、幽助の優しさが、幽助自身を生かす力にもなっていると読める。
誰かを守るときには動ける少年が、その「誰か」の姿を借りた自分にも手を差し伸べる。
幽助が試練を越えたとき、その腕の中には傷ついたプーがいる。
強くなった幽助と、弱々しい分身が、同じ場面に残っている。
プーを自分の優しさや傷つきやすさの表れとして見るなら、この結末は、そうした部分も大切にしたまま強くなる姿に見える。
洞窟から生還した幽助の強さを、プーを抱く腕の優しさと一緒に味わえる場面なのだ。


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