鬼頭莫宏さんの『ぼくらの』第1巻には、人物へ向かう線のない吹き出しや、短い声を分けて入れた吹き出しが見られます。
何を話しているかに加え、その言葉をどう区切り、誰の顔と並べるかにも、会話の特徴があります。
まず『ぼくらの』の二つの場面を見て、短編の会話とも比べてみます。

話し手へ伸びる線がない、丸い吹き出し

第1巻122ページには、子どもたちが椅子に座り、話しているコマがあります。
丸い吹き出しの端から、発言した人物の口へ向かう細い突起は出ていません。
台詞と話し手を、一本の線で直接結んでいない形です。
この場合、誰が話しているかは、吹き出しの位置、人物の顔の向き、前後のやり取りを合わせて読み取ることになります。
短い「おお」を、二つに分けて置く

第1巻108ページでは、少年が大きく口を開けています。
その横の大きな吹き出しは二つに分かれ、どちらにも短い「おお」という声が入っています。
同じ短い声を二つの吹き出しで区切り、順に読ませる配置です。
ここでは、大きく開いた口と吹き出しの形が、興奮して声を出す姿を伝えています。
日常の会話では、黙った顔も一つのコマになる

短編『パパの歌』には、妻の松葉が言い出しかけ、夫の隆が聞き返す場面があります。
短いやり取りとともに、台詞のない隆の顔にも一つのコマが使われています。
言葉が詰まったり、返事を促したりする二人の様子を、複数のコマからたどります。
『パパの歌』の夫婦の会話では、言葉を交わす速さも、二人の関係を知る手がかりになります。
『ぼくらの』の強い声も、『パパの歌』のためらいも、文字だけでなく、人物の顔や台詞の区切りと一緒に描かれています。
まとめ
鬼頭さんの台詞に注目するなら、書かれた言葉のほかに、どこで一つの声を切り、どの顔を隣に置くかも見どころです。
吹き出しをたどることと、台詞のない顔のコマを挟むこと。
その配置も、会話の速度を想像する手がかりになります。
会話のリズムを、言葉と画面の両方から味わえるところに、これらの場面の面白さがあります。

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