楳図かずおの恐怖はどう広がった?『へび女』から人間の心へ

楳図かずおの写真を表紙にした『怪と幽』vol.008。楳図かずおホラーワールド特集。 楳図かずお
『怪と幽』vol.008表紙/KADOKAWA。

楳図かずおさんは、蛇や暗闇のように本能的な怖さを感じるものから、人間の心へと、描きたい恐怖が広がったと語っています。
『おろち』では人間関係を描き、『蟲たちの家』では愛情と嫉妬が絡み合う人物を描きました。
身近な人の感情も、恐怖の題材になっていったのです。

青い背景に二人の少女と蛇の影を描いたへび女の表紙
『へび女』の書影/楳図かずお。画像:一般財団法人UMEZZ。 出典

怖い姿から、何を考えているか分からない人へ

2009年のインタビューで、楳図さんは『へび女』のような本能的に怖いものから、次第に人間心理へ関心が向いたと説明しています。
その関心を作品にした一つが、1969年に連載が始まった『おろち』でした。

回想録『わたしは楳図かずお―マンガから芸術へ』の公開抜粋でも、異様な姿は最初に強く怖がらせられる一方、見慣れれば怖さが薄れると話しています。
これに対して、人間の心の怖さは複雑です。
見た目が普通でも、その人が何を考えているかは分かりません。
楳図さんは、そうした人間を描くことにも怖さを見いだしていました。

『おろち』第1話「姉妹」。おろちがエミの手に触れ、閉ざされた心について語る場面。
『おろち』第1話「姉妹」から/楳図かずお。回想録の公開抜粋に掲載された原作コマ。 出典

おろち自身を少女にした理由や、少女漫画の仕事とのつながりは、『おろち』の主人公を選んだ発想で紹介しています。

『蟲たちの家』では、愛情と憎悪を簡単に分けない

2015年の伊藤潤二さんとの対談で、楳図さんは恐怖を、自然界のものと人間のものに分けて説明しました。
暗闇や風の音への怖さに加え、人間の怨念や憎しみを挙げ、幽霊もそうした感情が形になったものと考えていたのです。

楳図さんが『蟲たちの家』について語ったのは、嫉妬は愛情なのか憎悪なのか、という問いでした。
楳図さんによると、夫と妻、夫の不倫相手の三人は、それぞれ攻撃する面を持ちながら、被害を受ける側でもあります。
人間の心理を集めて描いた作品なのだと、楳図さんは振り返っています。

楳図さんは同じ対談で、ホラーでは明確な答えを出したくないとも話しています。
答えを出し切らず、分からないものに触れるところに、ホラーの魅力を見ていたのです。

左の伊藤潤二と右の楳図かずおが両手を広げてポーズを取る写真
左:伊藤潤二さん、右:楳図かずおさん。2015年公開の対談写真/本田雄士撮影。 出典

怪物の登場を、説明しすぎない

楳図さんは、怪物を見せる驚きについても語っています。
『怪と幽』vol.008のインタビュー公開抜粋では、『透明人間』『フランケンシュタイン』など古い怪物映画の物語づくりを評価しています。

楳図さんが大切にしたのは、扉を開けると突然怪物がいる、といった驚きでした。
その場面に至る事情を一つずつ説明することが、ホラーの面白さを損ねる場合もあると考えていました。
自身の監督作『マザー』より前に持ち込まれた別の映画企画でも、話の流れに理由を求められ、うまく伝わらなかったそうです。

『怪と幽』vol.008の楳図かずおインタビュー見開き。左は楳図の写真、右は取材の導入。
『怪と幽』vol.008「楳図式ホラーの流儀」の公開見開き/KADOKAWA。 出典

恐ろしい姿を見せること、人の心を描くこと、予想の外から驚かせること。
楳図さんの話からは、怖さを一種類に絞らず、物語に応じて広げていたことが分かります。

まとめ

人間心理を描くようになった後も、楳図さんにとって怪物や突然の出現は大切なものでした。
怪物の姿で驚かせ、人間の心には答えきれないものを残す。
楳図さんが語ったのは、怖い題材を選ぶだけでなく、説明することと説明しないことも考える物語づくりでした。

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