『ファントム無頼』はどう二人で作った?新谷かおると史村翔の相談と演出

青空を飛ぶF-4EJファントムIIを描いたファントム無頼のカラー扉 新谷かおる
原作:史村翔、作画:新谷かおる『ファントム無頼』カラー扉/『新谷かおる航空機グラフィティ 著者が語るビジュアルガイド』(玄光社)掲載、©史村翔・新谷かおる。出典:https://magmix.jp/photo/170554

『ファントム無頼』は、原作の史村翔さんと、作画の新谷かおるさんによる航空漫画です。
史村さんは対照的な二人組のドラマを考え、新谷さんは基地を一つの家族として描く方向へ、原作を変えていきました。
二人は相談を重ねながら、それぞれの得意なものを漫画に加えています。

編集者に呼び出されて始まったコンビ

2023年8月の公開対談で、二人は『ファントム無頼』の仕事が始まった経緯を振り返っています。
新谷さんは小学館の編集者に呼び出され、飛行機を描くのが好きなのだから、この原作でやるようにと言われました。
史村さんも同じ編集者から、メカを描ける漫画家がいるので、何か書けないかと持ちかけられたそうです。

2023年のねりま漫画サロンで画集を手にする、左の武論尊と右の新谷かおる
左:武論尊(史村翔)さん、右:新谷かおるさん。2023年8月6日、ねりま漫画サロンで/掲載:映像文化のまち ねりま。 出典

史村翔は、『北斗の拳』などで知られる武論尊さんの別名義です。
新谷さんは、すでに『ドーベルマン刑事』をヒットさせていた史村さんと組むことになりました。

二人乗りのファントムに、対照的な主人公を乗せる

2024年の本人インタビューで、史村さんは、ファントムを主役にしようと新谷さんへ提案したと話しています。
史村さんには航空自衛隊に勤めた経験があり、当時見た機体の迫力が記憶に残っていました。

ファントムは前後に席があるため、前にパイロットの神田鉄雄、後ろにナビゲーターの栗原宏美を乗せられます。
史村さんは、肉体派と頭脳派という対照的な二人の組み合わせで、ドラマを進めようと考えました。

青空を飛ぶF-4EJファントムIIを描いたファントム無頼のカラー扉
原作:史村翔、作画:新谷かおる『ファントム無頼』カラー扉/『新谷かおる航空機グラフィティ 著者が語るビジュアルガイド』(玄光社)掲載、©史村翔・新谷かおる。 出典

史村さんは新谷さんと百里基地へ取材にも行っています。
かつての同期たちの協力も、作品に実感を与える材料になったと振り返りました。

新谷かおるが、基地を一つの家族として描いた

新谷さんは2024年の取材で、史村さんから届いた原作は真面目な内容だったと話しています。
熱血漢の神田と冷静な栗原という人物の違いは、そこにすでにありました。

新谷さんは、自衛隊そのものが政治的な議論の中心になることを避けたいと考えたと説明しています。
そこで、基地全体を一つの家族と捉え、ホームドラマとして描きました。

新谷さんが見直したのは、物語の大きな方向だけではありません。
原作の第一稿には、基地司令の演説に「英霊の御霊」という言葉があり、新谷さんは、それをやめようと提案しました。
隊員の襟にも、階級章を描かないようにしたといいます。
新谷さんは、こうした変更を史村さんに相談していたことも明言しています。

神田と栗原、F-4EJを描いたファントム無頼完全版第1巻の表紙
『ファントム無頼 完全版』第1巻表紙/原作:史村翔、作画:新谷かおる、小学館、2024年刊。 出典

夜中の打ち合わせで、文章から絵へ広げた

2023年の対談で、新谷さんは、原作を変えてよいか尋ねると、史村さんがすぐに認めてくれたと語りました。
史村さんは、漫画家の演出が加わることで、原作の世界が広がると考えていました。

二人は夜中のファミリーレストランや喫茶店で、よく打ち合わせをしたそうです。
電話では伝えにくいことがあり、史村さんは、ファントムにさせたいアクションが描けるか、新谷さんへ相談していました。
新谷さんが返す機体の構図は、史村さんには思いつかないものだったといいます。

2023年ねりま漫画サロンで、新谷かおると武論尊がファントム無頼について話す会場の様子
2023年8月6日の「新谷かおる×武論尊」トークイベント/掲載:映像文化のまち ねりま。 出典

史村さんが評価したのは、飛行機の描写だけではありません。
女性の台詞の柔らかさなど、自分に足りないものを新谷さんが加えてくれたとも話しています。
新谷さんは長い連載を通して原作の書き方を学び、史村さんも、新谷さんの演出から学んでいました。

まとめ

新谷さんが原作に手を加えることを、史村さんは作品を広げる演出として受け入れていました。
『ファントム無頼』の共同制作には、相手の得意な表現を生かしながら、自分の仕事も学び直す関係があったのです。

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