藤田和日郎さんの初代担当編集者は、武者正昭さんです。
連載をなかなかつかめなかった新人時代を知る武者さんは、後に藤田さんへ、新人への助言を本にまとめる企画を持ちかけました。
そこから生まれたのが、2016年刊の『読者ハ読ムナ(笑)』です。

この本を作るために、二人は長時間話し合い、藤田さんの初期の作品ノートも見返しています。
連載を目指していた作者と、そのネームを読んでいた編集者が、今度は別の新人へ伝える言葉を一緒に考えていました。
新人として悩んだ藤田が、助言をまとめる側へ
武者さんは、2018年の本人取材で、藤田さんが新人に強い思い入れを持つ理由を話しています。
藤田さん自身、何度ネームを提出しても編集者が認めず、連載を得られない苦労を経験していたためだという説明です。
武者さんは、その苦労をさせたのが自分だったと、冗談を交えて振り返りました。

藤田さんも、『うしおととら』が始まるまでに、別の話を何度も描き直した経験を語っています。
後に新人アシスタントと接するようになり、漫画を描く人たちの悩みを日々聞く立場になりました。
武者さんも、多くの新人と仕事をする中で、繰り返し出てくる不安や悩みを知っていました。
二人が普段伝えていることを、一冊にまとめて届けようという企画だったのです。
帰りの電車では、助言をほとんど忘れていた
武者さんが助言を文字で渡すようになったきっかけには、ある新人とのやり取りがあります。
前の打ち合わせで話したことをどれくらい覚えているか聞くと、新人は、帰りの電車でもう一割ほどしか覚えていなかったと答えたそうです。

良い話をしたつもりでも、相手に残っていなければ、次の原稿へ生かしにくい。
武者さんは、打ち合わせの要点を箇条書きにして渡すようになりました。
さらに、キャラクターの考え方などを数枚にまとめたメモが編集部で保管され、後にコピーして配られたといいます。
そのメモは「武者メモ」と呼ばれていました。
武者さんは、そのメモが本の遠い原形かもしれないと話しています。
その場の会話で終わらせず、後から読み返せる言葉にする方法が、本を作る話へつながっていました。
二人で話し、初期の作品ノートも読み返す
本の土台を作る際、藤田さんと武者さんは、キャラクターや物語について話し合いました。
一回につき約5時間の対談を3回。
よく話す武者さんから見ても、藤田さんはその倍以上話す人だったといいます。

二人は、藤田さんが持っていた、ボツになった初期の作品ノートも見返します。
ノートを読むうちに、武者さんは、当時どんなことを話したかを思い出したそうです。
二人は、当時の記憶と、手元に残っていたノートの両方を使っていました。
その後は、文字に起こした対話を二人が読み、気になるところを確認し、直していきます。
最後に読みやすく整理したのが、構成を担当した飯田一史さんでした。
対話を土台に、記録を読み返し、言葉を確かめて作った本なのです。
編集者の考え方も、新人へ伝える
武者さんは、新人にとって編集者が、連載へ進むのを阻む壁に見えることがあると話しています。
武者さんは、編集者の立場や考えを理解しにくいことが、新人とのすれ違いにもつながると説明しています。
本で編集者側の考えを伝えることは、相手の立場からも仕事を考える助けになるという説明です。
藤田さんが新人に伝える言葉に、初代担当の説明も加わりました。
作者と編集者の双方から、漫画を仕事にする時の悩みに答える本になりました。
企画に戸惑った藤田さんも、最終的には引き受け、本の題名も考えています。
まとめ
武者さんは、打ち合わせの言葉をその場限りにせず、他の人にも伝わる形で残したいと考えていました。
『読者ハ読ムナ(笑)』では、藤田さんと武者さんが、作者と編集者の両方の経験を、仕事場の外にいる新人も読める形にしました。
連載を目指す作者と担当だった二人の付き合いが、次に漫画を描く人への一冊にもつながっているのです。
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