皆川亮二さんは、『スプリガン』の登場人物の中で、主人公の御神苗優がいちばん描きにくかったと振り返っています。
脇役を描くうちに皆川さんの愛着が増し、優の存在感が薄れていく。
優の存在感を保とうと描き加えると、今度は暗い人物になっていく。
主人公を目立たせようとする工夫にも、難しさがあったそうです。
初めから強い主人公だった優を、どのように描き続けるか。
皆川さんは、周囲の人物との関係や、戦場と学校を行き来する優について、制作時の苦労を語っています。

初めから強い優の周囲に、さらに強い人物が増えていった
皆川さんは小林千晃さんとの2023年の対談で、優を初めから強い人物として説明しています。
皆川さん自身も、努力して強くなる人物より、憧れの対象になるヒーローに惹かれてきたと話しました。
『スプリガン』を描き進めると、優の周囲に強い人物が増えていきます。
皆川さんが名前を挙げたのは、ジャン・ジャックモンドと朧です。
二人の登場によって、優の印象が薄れていくように感じていたそうです。

そのため、皆川さんは朧と戦う際に、優に修業をさせて成長させたと語っています。
すでに強い優の力を伸ばすことが、主人公を描く工夫の一つになっていました。

優に重荷を加えると、今度は暗くなってしまった
原作者・たかしげ宙さんとの対談では、脇役への愛着も話題になっています。
皆川さんは、脇役を描くほど人物が育ち、思い入れも強くなり、優がなおざりになっていったと振り返りました。
そこでの優の描き方を、皆川さんは「十字架みたいなものを背負わせたりする」と表現しています。
しかし、その描き方を続けると、優は次第に暗い人物になっていったそうです。
優の存在感を保つために描き加えることが、別の難しさにもなっていました。

原作者のたかしげさんは、優の立ち位置を別の角度から説明しました。
周りの人物が極端なので、優はその真ん中にいるような作り方をしていた、というものです。
原作と作画の共同制作では、人物の基本をたかしげさんが考え、皆川さんが肉付けしていました。
戦場で人を殺す優を、学校へ戻してよいのか
優の学校生活も、皆川さんが悩んだ部分でした。
小林さんとの対談では、戦場で多くの人を殺す青年を、普通に学校へ行かせてよいのかという葛藤を語っています。
皆川さんは、作品の最後で優を死なせようとしたこともあったそうです。
周囲から止められ、本人も、少年漫画として救いのなさすぎる結末だったと振り返りました。
優の結末についての、実現しなかった制作時の考えです。
同じ対談の後編では、学校生活を入れなければ、作品が殺伐としすぎてしまうとも説明しています。
非日常ばかりでは、読者が息苦しくなるのではないかと考えていたのです。
皆川さんは、優が普通の日常の感覚を忘れてしまうと、作品が暗い方向へ進みすぎ、読者がついてきにくくなるとも話しました。
人を殺す優を学校へ戻すことへの葛藤と、学校生活を残す必要性。
皆川さんは、両方を感じながら優を描いていたのです。
まとめ
皆川さんが悩んだのは、優を強くして目立たせることだけではありませんでした。
優の存在感を保ちつつ、読者が優についていける人物として描くことも必要だったのです。
たかしげさんが、優を個性的な人物たちの真ん中に置いていたと語るのも、この苦労と一緒に読むと分かりやすくなります。
脇役の魅力が増していく『スプリガン』では、脇役の個性を生かしながら、その中心にいる優をどう描くかも、二人が考えていた課題でした。


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