『銀と金』森田はなぜ、儲かったセザンヌ勝負を繰り返そうとしなかったのか

絵画の勝負で得た二億円を、自分の金として喜ぶ森田 銀と金
『銀と金』福本伸行・絵画編。

中条とのセザンヌ勝負で、森田は二億円を手に入れる。
森田の発想に川田の資金と人脈が加わり、二人の共同作業は大成功した。
それなのに、森田は同じ方法でもう一度稼ごうという川田の誘いを断る。

森田が金を欲しがらなくなったわけではない。
森田は、この勝負で儲けられたことと、同じ仕掛けを使い続けられることを分けて考えている。
その後、森田は自分のすり替えがすでに土門に見破られていたと知る。

絵画の勝負で得た二億円を、自分の金として喜ぶ森田
『銀と金』福本伸行・絵画編。

川田は次の儲けを見つけ、森田は手口の限界を見る

中条との勝負を終えた森田は、川田に撮影の仕掛けを明かす。
中条が本物を当てても、森田には中条の不正を撮った映像を示し、勝負の無効を申し出る備えがあった。
中条が外したから勝てただけではなく、当てた場合にも森田は対抗するつもりだったのだ。
撮影を含む計画は、森田が裏切りまで撮影していた理由で詳しく扱っている。

仕掛けを知った川田は、同じやり方で次の相手からも稼ごうとする。
一度の勝負で終わらせるより、何度も使ったほうが儲かるという考えだ。

サングラスをかけた川田
『銀と金』福本伸行・川田。

森田は、この方法を今回限りにすると告げる。
同じ手口を続ければ、見抜く者が出てくると森田は考えている。
中条を欺けたという実績はあっても、次に選ぶ相手まで同じように欺けると決まったわけではない。
森田が断ったのは、稼げる仕事そのものではなく、今の成功を頼りに同じ仕掛けを繰り返すことだった。

儲けの使い方でも、二人の判断は合わない

森田と川田の違いは、次の勝負をするかどうかだけではない。
森田は、勝負に使った本物のセザンヌを土門へ返そうとする。
川田は、その絵も売って金にすることを望んでいる。
中条から得た金に加えて、手元にある絵の価値まで儲けに変えたいのだ。

森田は、自分を裏切った青木にも報酬を渡す。
川田は、この支払いにも不満を持っていた。
勝負中には力を合わせられた二人が、勝負の後には、何を渡し、何を手元に残すかで折り合えない。
川田は、森田とのコンビを解消する。

二人が一緒に稼げたことは、稼いだ後の判断まで一致することを意味しなかった。
互いの不足を補う関係は成立しても、その成功から先に進む方向は違っていたのである。

見抜く人間は、すでに近くにいた

原画を持って土門のもとへ向かった森田は、そこに銀二がいることを知る。
土門は、本物が贋作にすり替えられていたことに、すでに気づいていた。
銀二が損失を保証していたから、土門はそのまま様子を見ていたのだ。

帝日銀行頭取の土門
『銀と金』福本伸行・土門。

土門が見抜いたのは、森田が勝負の準備として行った原画のすり替えである。
中条とは別の場面で、森田が欺こうとした人物が気づいていたのだ。
森田が警戒した「見抜く者」は、すでに計画に関わる人の中にいた。

森田は、土門が気づいていることを知らずに勝負を進めていた。
森田の計画が実行できた背景には、森田自身の工夫に加えて、銀二が土門との間で用意した保証もあった。
原画の持ち主に計画を黙認してもらう手配は、森田の知らないところで銀二がしていたのである。

金と呼ばれたいと川田に話し、銀二を超えるための望みを語る森田
『銀と金』福本伸行・絵画編後。

森田は川田との別れに際して、銀二を超えて「金」と呼ばれたいという望みを語っている。
金を稼ぐ野望を持ちながら、今儲かった手口にはしがみつかない。
後で明かされた土門の察知は、森田の警戒が大げさではなかったことを示している。
二億円を掴んだ快挙の直後に、森田がすべてを見通していたわけではないと分かる。
この勝負の終わりには、森田の成功と、成功に酔って同じ手口を続ける危うさの両方がある。

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