平井銀二は森田鉄雄の前に五千万円を積み、人を殺してほしいと持ちかける。
森田が答えを出せずにいると、銀二は札束を減らし始める。
森田はそれを止めようとし、金が減る苦しさを「身を切られるよう」と表している。
森田は、まだこの金を受け取っていない。
依頼を引き受けるとも答えていないのに、なぜ自分が何かを失ったように苦しむのか。
この反応を読む鍵は、森田が札束を「自分のものになるかもしれない金」として見ていることにある。

森田には、まだ手に入れていない金が惜しくなる
銀二は、五千万円が森田の今後の人生を大きく変えられる金だと説く。
森田の目の前には、その金が現金で積まれている。
森田は、話の上だけの金額ではなく、手を伸ばせば届く札束を見ながら、依頼に答えなければならない。
ただ、五千万円を見せられたからといって、森田が受け取れると決まったわけではない。
銀二が求めているのは、殺人への協力だ。
金が欲しいという気持ちと、その依頼を引き受けられるかという迷いが、森田の中でぶつかっている。
森田がまだ返事をしていなくても、金を手にする期待は生まれる。
森田の「身を切られるよう」という言葉には、その期待した金まで自分の一部のように感じ始めた苦しさが表れている。
銀二が札束を引くと、森田には、手に入るはずだったものを取り上げられるように感じられたのだ。

減っていく札束が、森田の決断を急がせる
銀二は森田の答えを待ちながら、五百万円ずつ報酬を減らす。
森田が迷っている間にも、目の前の札束は減っていく。
森田にとっては、考えてから答えたい時間そのものが、金を失う痛みを伴うようになる。
銀二は、遅く決める者には大成がないと迫る。
銀二の言葉と、銀二自身が札束を減らす行動が、同時に森田を急かしている。
森田は、答えを出す前に、減額を止めてほしいと訴えずにはいられなくなる。

苦しんだ森田が、それでも断る意味
森田は五千万円に心を動かされ、減らされると苦しんだ。
そのうえで、森田は殺人に協力できないと答える。
森田が断った時、金への欲が消えたわけではない。

森田の拒否が重く感じられるのは、その前に、金を取り上げられたように苦しむ森田を見ているからだ。
森田は、欲しくない金を断ったのではない。
欲しくて、減るだけでもつらい金を前にして、依頼を断っている。
銀二の五千万円は、依頼を引き受ける前に森田の心をつかんでいた。
森田の拒否には、その誘惑に苦しんでなお踏みとどまる重みがある。


コメント