『カイジ』和也はなぜ小説を書いたのか? 『愛よりも剣』に託した二つの願い

賭博堕天録カイジ和也編第1巻の表紙 カイジ
画像出典:『賭博堕天録カイジ 和也編』第1巻/福本伸行・講談社

兵藤和也は、金も権力も持っている。
それでもカイジに自分の小説『愛よりも剣』を読ませる。
父の名を出せば人を動かせる和也が、なぜ作家になろうとしたのか。
そこには、自分自身を見てほしいという願いと、人間は追い詰められれば他人を裏切るという考えを認めさせたい気持ちが重なっている。

和也がカイジに読ませる小説『愛よりも剣』
『賭博堕天録カイジ 和也編』/福本伸行・講談社

父の名前では、自分への評価が分からない

和也は兵藤和尊の息子として、人から特別に扱われてきた。
和也には、相手が自分に向ける言葉も態度も、父への恐れや金目当てに見える。
カイジと食事をする場面で、和也は人々が自分ではなく、背後にいる父を見ているという不満を語る。

父の力で従わせることはできる。
だが、それでは和也本人が何をできる人間なのか分からない。
和也が作家を目指す理由は、この行き詰まりとつながる。
小説を読んだ人から自分の作品への反応を得られれば、父の息子としてではなく、書き手として評価されるはずだからだ。

和也は自分が見た「真実」を書いたつもりでいる

和也が書いたのは、恋人同士の二人が剣を刺す場所を選び合う物語だ。
一方が傷つき、自分を守ろうとするほど、二人の言葉は変わっていく。
和也は、この小説が自分の行った勝負を基にしているとカイジに明かす。

和也の小説に登場する二つの箱と剣
『賭博堕天録カイジ 和也編』/福本伸行・講談社
相手に剣を刺すよう求める小説の登場人物
『賭博堕天録カイジ 和也編』/福本伸行・講談社

和也にとって、二人が互いを傷つけた結末は、単に小説の山場ではない。
人間の愛情よりも保身が勝つ、という自分の見方を支える出来事だ。
和也は実際に目にしたものを物語にしたのだから、その見方にも説得力があると考えている。
作家として認められたい願いは、自分が信じる人間の姿を認めさせたい願いと、ここで結びつく。

カイジは和也の「人間の真実」を退ける

カイジは和也の小説を読んで、その残酷さに強く反発する。
和也は追い詰められた二人の振る舞いを「人間の真実」と呼ぶが、カイジはその一場面で人間のすべてを決めることを受け入れない。
カイジ自身にも裏切られた経験がある。
同時に、極限の状況でも家族を思い、カイジに金を託した石田のことも知っている。

和也が自分の見た人間の真実を書くと語る場面
『賭博堕天録カイジ 和也編』/福本伸行・講談社

和也は小説をカイジに読ませ、自分の人間観も示した。
ところがカイジが率直に異を唱えると、和也はその違いを話し合うより、次の勝負で確かめようとする。
自分の言葉で評価されたい和也が、自分と異なる評価には納得できない。
この食い違いが、小説を読ませる場面から、その後の「救出」へ続いていく。

まとめ

和也は、父の名なしで自分を認めてもらうために小説を書いた。
同時に『愛よりも剣』は、和也が信じる人間の醜さを他人にも見せるための作品だった。
カイジは作品を読み、和也自身に向かって反論する。
父へのお世辞ではない言葉を得たのに、和也は自分の見方を変えない。
和也は隣の部屋の勝負で、自分の答えを確かめようとする。
自分の力で認められたい願いが、相手に自分の答えを認めさせたい願いへ傾くところに、小説と次の勝負のつながりがある。

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