地下で出会った石田広光は、自分の借金を返せなかった父・石田光司を責める。
父の最期を知るカイジは怒って広光を殴った。
ところが「沼」に勝った後、カイジは広光を地下から出すよう頼む。
カイジは広光の言い分に納得したのだろうか。
救出の理由は、広光への好意よりも、命を落とした父が息子のためにしようとしていたことにある。
広光は、父がどこへ行ったのか知らなかった
広光は自分で作った約三百万円の借金について、親なら払うはずだとカイジに話す。
石田光司は「何とかする」と言って家を出たまま、広光のもとへ戻っていない。
広光はその言葉を、結局何もしてくれなかった父への不満として語った。

カイジは、広光が知らない父の最期を見ていた。
石田光司は鉄骨渡りで恐怖に足を止められながらも、家族の借金を何とかしようとしていた。
カイジは、父が自分の借金だけでなく、広光の借金も背負って橋へ向かったのだと受け止める。
だから、何もしてくれなかった父だと決めつける広光の言葉に怒った。

カイジが否定したのは、広光が地下へ落ちたという結果ではない。
父が最後まで苦しんだことさえ知らず、その父を責める言葉だった。
父が助けたかった相手は、広光だった
鉄骨の上で石田光司がカイジに託したのは、妻の借金を返すための一千万円の引換券だった。
カイジは、父から「息子を救え」と直接頼まれたわけではない。
しかし地下で広光と話したことで、父が広光の借金にも手を伸ばそうとしていたと知る。
広光を救うことは、カイジが石田光司の思いを引き受ける選択になった。
広光が父を責めた事実は、救出によって消えない。
カイジは広光の言葉を正しいと思い直したから助けるのではない。
広光がどんな態度を取ろうと、石田光司にとっては助けたかった息子だった。
カイジが放っておけなかったのは、その父の願いだ。
それでも、五人の取り分を勝手には使わない
「沼」に勝ったカイジは、地下に残した仲間五人の借金を返し、勝利の取り分も分けるつもりでいた。
ところが遠藤との借用書に書かれた高額な利息を見落とし、カイジの手元に残る金は大きく減る。
その状態でもカイジは、五人を救い出す約束を優先した。


五人の借金を返した後に残る金には、五人それぞれの取り分がある。
カイジは黒服に、五人が全員納得するなら、その金で広光を出してほしいと頼む。
一人でも嫌がれば、広光の救出は諦めるという条件も付けた。

石田光司の願いをかなえるためでも、仲間の金をカイジ一人の判断では使えない。
五人が承諾して初めて、広光の解放が決まる。
父への思いを、今ともにいる仲間への約束を破る理由にはしなかった。
殴ったことと、救ったことは矛盾しない
広光を殴ったカイジは、父の苦労を知らずに父を責める言葉を許せなかった。
広光を救ったカイジは、その父が助けようとしていた相手を地下に残せなかった。
広光への評価が変わったから、行動が変わったのではない。

石田光司には果たせなかった広光の救出を、カイジは五人の承諾を得て実現した。
父を大切に思うからこそ息子の言葉に怒り、父を大切に思うからこそ同じ息子を助ける。
カイジの二つの行動をつなぐのは、広光ではなく石田光司だ。


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