『わたしは真悟』は、機械そのものが成長していく姿を描こうとした長編です。
楳図かずおさんの作品歴では、1980年代の代表作であるとともに、後年の新作へつながった作品でもあります。
連載終了から三十年以上たって届いた海外の賞が、楳図さんにもう一度、新作を作ろうと思わせました。

1982年に始まった、機械が育つ長編
『わたしは真悟』は、1982年から1986年に『ビッグコミックスピリッツ』で連載されました。
楳図さんは、それ以前にもSFを描いています。
1955年のデビュー作には『別世界』があり、1972年には、子どもたちが未来へ飛ばされる『漂流教室』の連載が始まっていました。
『わたしは真悟』では、少年の悟と少女の真鈴、そして工場の産業用ロボットが物語の中心になります。
二人から言葉を教わったロボットに、意識が生まれていく。
人間のように振る舞うロボットを最初から登場させるのとは、出発点が違います。

楳図さんは2016年のインタビューで、人型ロボットを描いた先行作品とは違い、身近な機械を意識したロボットを描きたかったと説明しています。
作品の中心として挙げたのも、コンピュータやロボットが未来へ向けて進化していく姿でした。

成長する機械と、仕事を失う父
同じ取材で、楳図さんは悟と真鈴の父親の対比にも触れています。
悟の父は仕事を失う一方、真鈴の父はエリートとして英国で裕福に暮らす。
二人の生活の違いを描きたかったといいます。

ロボットができることを増やしていく物語には、機械化についていけない人間の生活も置かれています。
楳図さんは、機械化が進んでも人間らしさを残していく必要があるのではないか、と話していました。
機械の成長を描くことと、人間がどう生きるかを考えることが、同じ作品に入っているのです。
真悟が世界のコンピュータへつながっていく展開については、同じ取材の続きで、当時は漫画の流れとして描いたと振り返っています。
今の技術と似て見える部分があっても、本人が語る制作の出発点は、物語をどう展開させるかにありました。
海外での受賞が、次の新作へつながった
2018年、『わたしは真悟』はフランスのアングレーム国際漫画祭で遺産賞を受賞します。
楳図さんは『文學界』2022年4月号のインタビューで、この受賞が新作に取り組もうと決めたきっかけだったと話しています。
2022年に発表したのが、『わたしは真悟』の続編に位置付けられた『ZOKU-SHINGO 小さなロボット シンゴ美術館』です。
楳図さんは同じ取材の前編で、未来を描こうと考え、ロボットを出した『わたしは真悟』につながったと説明しています。
新作の形式には、101点の絵をつないで物語を見せる連作絵画を選びました。

楳図さんは、1995年の『14歳』完結後も、音楽や映画の仕事をしていました。
作品歴全体をたどると、『わたしは真悟』は、漫画の長編と後年の連作絵画をつなぐ一作でもあります。
まとめ
『わたしは真悟』から続編へ進むと、同じ物語の世界を、漫画と連作絵画という二つの形で見ることになります。
作品の中で何が起きたかだけでなく、作者がその世界をどんな形で描き直したかにも、この一作をたどる面白さがあります。


コメント